漢江のほとりで待ってる
ただ救いだったのは、毎日が忙しかったこと。
事故のことや、珉珠のこと、他の人間のことを一時的にも考えなくて済んだ。
それでそのまま、時間が過ぎて行ってくれればよかったのに、縁(運命)の糸は由弦を少しずつ絡め取る。
あえて関わらなくていいものを、わざわざ関わって来る相手がいる。
由弦がアトリエで絵を描いていた時、慶太からの電話。
「お前は十二月はどうしてるんだ?」
「ん!?十二月は忙しい。年明けもだ。博覧会の件もあるから、遊んでる暇はない」
「そうか。忙しいなら仕方ないな、一応報告はしておく。来年の春辺りに結婚をする!珉珠くんと。その前に婚約パーティーをする。その時はお前も必ず出席しろ!報告したからな?」
そう言うと慶太は電話を切った。
結婚という二文字を耳にした時は、胸に衝撃が走った。でもすぐに、諦めという感情が由弦の心を塞いだ。
―――― 言いたいことだけ言ってすぐ切る。以前、義母様も要件だけ言って一方的に電話切ったことがあったな。やっぱり親子そっくりだな。
そう思って、切れたあとのスマホ画面をしばらく眺めていると、ふと何かが頭を過った。
「高柳慶太と青木珉珠は二人で結婚の挨拶に韓国へ行った。仲睦まじく、珉珠の父の墓参りもした。お前が二人の間に入る余地はない」
「高柳慶太と青木珉珠は式場の下見とウェディングドレスを選びに行く予定」
送り主不明のメッセージが届いたことを、由弦は思い出してスマホを開いた。
まだそれが残っていた。
送信先を追及できない、きっと慶太なら容易く出来てしまうのだろう。自分の不甲斐なさに腹が立った。
どんなに活躍しても、自分にないもの、弱いものを守れる力、権力がない……
由弦は無力さを思い知らされる。