漢江のほとりで待ってる

幸せ絶頂の慶太の所に、テレビ局の人間からある企画が持ち込まれた。

高柳グループの悪評も収まりつつある中、兄弟の確執も、一人の女性を奪い合うこともなくなり、困難を乗り越え、純愛を貫いた慶太氏と、事故から驚異の復活を遂げた、不屈の精神の持ち主、天才クリエイターであり、弟、由弦氏との仲の良い様子を撮りたいと言って来た。

また、勝敗に関係なく、スポーツに励む、互いに熱い闘志をぶつけ合う姿も撮りたいと付け加えた。

そのため、慶太の嫌いな野球を、高柳グループ全体で、紅白に別れて行う企画が打ち出された。

慶太は迷うことなく快諾した。

―――― 由弦はあの体だ!あれなら勝てる!負けるわけがない!

建前上、高柳グループの宣伝にもなり、立ち直った自分を見てほしい!とコメントした。

この話は、弦一郎の耳にも入り、とても喜んだ。

野球は由弦の得意中の得意なスポーツだったから。

由弦の雄姿を、また世間にお披露目できることが、何より嬉しかった。

由弦の体が自由に動かないことも知らずに。

そんな弦一郎は、この話を由弦に持ちける。

アトリエにいた由弦のもとに、父、弦一郎から電話がかかって来た。

一通り話を聞いた由弦は、断ろうとしたが、どうしてもとお願いされる。

やっと兄弟揃って、何か一つのことに取り組む、それが仕事でなくてもいい、父に二人の雄姿を見せてほしいと言って来た。

しかし、由弦は、体のことは伏せながらも、大切な依頼を受けている時に、もし腕や指でも怪我をしたら、絵も描けなくなるし、準備にも支障きたすと伝え、一度は断った。

だが弦一郎は、あのスポーツ嫌いの、一度も親善大会に参加したことがないあの慶太が、やる気になっている、その気持ちも汲んでやってほしいと引かなかった。

まして、不祥事があったばかりの高柳に、好印象を与える絶好のチャンスでもある、結婚を控えた兄に花を持たせてやってくれ!とまで言われ、ほとんど強引とも言えるお願いに、由弦は断り切れず、渋々承諾した。

その企画は、クリスマスのあと、行う日程となった。

由弦の気持ちを、みんな無視して、誰一人として、気付いてやる者はいなかった。

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