漢江のほとりで待ってる

一方、アトリエに一人、イヴの夜も、博覧会に間に合わせるように、絵を描き続けている由弦。

そこへ、仲里が電話をして来た。

きっと高柳専務も一人だろうから、一緒に飲みませんか?と誘いの電話だった。

由弦は、クリスマスイヴだから、今日ぐらいはいいかと、自分のアトリエの場所を彼女に教えた。

仲里は小さなクリスマスケーキを持参して来た。

ロウソクを灯し、そっと二人眺めていた。

「殺風景な部屋ですね?ストーブはあるのに、寒く感じるし、何か淋しい感じ」

と仲里は部屋を見渡して言った。

「そう?絵を描くためだけに借りたから」

「えっ!?ここで寝泊まりしてるんですか?」

「そうだよ?」

温かみのない場所で、ひたすら一人で描き続けている、それを想像すると切なくさえ感じる仲里だった。

「具合どうですか?大丈夫ですか?な訳ないか……」

「大丈夫とは言い切れないけど、やり切ってみせる!」

「お願いですから、この仕事が終わったら、ちゃんと手術受けてください!」

「うん、分かってる。ごめんね?心配かけて、変な約束までさせて」

「ほんとですよ」

「でも不思議だな、こんな部屋でも誰かといるととても温かみを感じるよ」

ほろ酔いの由弦は、なぜか幼い頃の自分の境遇を話し出した。

母親を亡くしてから、十五になるまで、親戚をたらい回しにされて来たことや、それでなくとも、愛人の子ってだけでお荷物的な存在だったのに、義伯父の所に預けられた時が、一番厄介者扱いされ、ご飯もあまり食べさせてもらえなかったことなど話し出した。

「恨むんなら、お前の母親を恨め!と、皿に乗ってる食べ物をひっくり返され、掃除する代わりにそれを食え!床に落ちた分も綺麗にしろ!なんて言われて」

「それ食べたんですか?」

「もちろん食べるさ、当然!わずか五才のオレには、他に頼れる人もいないし、その時父さんにも捨てられたと思っていたから、一人で生きて行く術を知らない。食べ物をその日もらえたらいい方だった。それにゴミ箱の残飯がごちそうだった。みんなが寝静まったころ、飢えを凌ぐために、ゴミ箱漁って食べたよ」

「……」仲里は胸が詰まった。

「クリスマスなんかは、お前はここにいること自体、相応しくないって言われて、外に追い出されて、雪がチラつく窓の外側で、義伯父達が楽しそうにする中、ケーキにロウソクの火が点けられていくのを見てた。ケーキも食べ残しを放り投げられ、床に落ちた生クリームを舐めさされたりしたよ。何が気に入らないか分からないけど、意味もなく殴られたり……母さんと泣いて叫んだけど、会えるはずもない。とにかく、十五になるまでは、淋しさに耐えて、飢えと寒さを凌ぐのに必死だったよ。夏はスーパーに逃げ込んで涼を得ながら、歩き回って試食品食べてお腹満たした。オレは常習だから、出禁になった店もある。ふっ。とにかくどんなことをされようと、殴られようと、必死に我慢した。」

あまりの惨さに、聞きながら仲里は涙を流した。

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