漢江のほとりで待ってる
クリスマスから三日後、テレビ局から持ち込まれた企画、野球大会の日を迎えた。
意気揚々とユニホームに身を包む慶太。
珉珠が自分をそばで見ている、とても気分がよかった。
由弦とは、敵チームとして戦うことになっていたから、控室は別々だった。
今日の慶太はテンションが高かった。
彼女は自分を応援する、由弦ではなく、自分のフィアンセとして。
由弦をひれ伏してやる。しかも、由弦の得意な野球で!
その無様な姿を、そして珉珠の前で、世間に晒し者にする。
―――― いいか?由弦、私は負ける試合はしないんだよ!この試合が終わったら、お前の面倒は私が見てやる!だから安心して負けろ!日陰の報われない天才クリエイター君よ!
闘志むき出しだった。本当の決着をつけるために。
その勢いづいた慶太とは裏腹に、由弦はとても憂鬱だった。
由弦の気持ちを余所に、試合開始と同時に、撮影も始まった。
後攻の由弦はグラブをはめ、軽くポケット(ボールを捕球する所)を叩いた。
すると、ウェブ(網の部分)の辺りに違和感を感じた。
よく見ると、所々切れ込みが入っているのが分かった。
「……!!」
予備のグラブを取りに戻るにはもう時間はなかった。
「高柳専務、何かあったのかな……しきりにグローブ気にしてる」
スタンドで見ていた仲里が、首を傾げ、由弦を見ていた。
以前のような、自信に溢れた真剣な眼差しではなく、苦痛にも似た真顔のようだった。
体は思うようには動かず、つまずき、ボールを取り損ねる由弦。
それを見ていた珉珠も、普通ではないことを感じていた。
取ったかと思えば、網目が裂けて、ボールはこぼれ落ちる。散々だった。
何とか食らいついて、ボールを追いかけても、ほとんど取ることは出来なかった。
見に来ていた、甲斐たちも、
「今日の専務~何だか調子悪そう。ボール落としてばっかり。何だか走りにくそうだし~」
仲里は分かっているだけに、見ているのが辛かった。
弦一郎も、どこか由弦の様子がおかしいと、不思議に思った。
それを見ていた慶太はほくそ笑んでいた。
―――― それでいいんだよ!由弦!兄上より優れていてはいけない!兄上よりも目立ってはいけない!