漢江のほとりで待ってる

クリスマスから三日後、テレビ局から持ち込まれた企画、野球大会の日を迎えた。

意気揚々とユニホームに身を包む慶太。

珉珠が自分をそばで見ている、とても気分がよかった。

由弦とは、敵チームとして戦うことになっていたから、控室は別々だった。

今日の慶太はテンションが高かった。

彼女は自分を応援する、由弦ではなく、自分のフィアンセとして。

由弦をひれ伏してやる。しかも、由弦の得意な野球で!

その無様な姿を、そして珉珠の前で、世間に晒し者にする。

―――― いいか?由弦、私は負ける試合はしないんだよ!この試合が終わったら、お前の面倒は私が見てやる!だから安心して負けろ!日陰の報われない天才クリエイター君よ!

闘志むき出しだった。本当の決着をつけるために。

その勢いづいた慶太とは裏腹に、由弦はとても憂鬱だった。

由弦の気持ちを余所に、試合開始と同時に、撮影も始まった。

後攻の由弦はグラブをはめ、軽くポケット(ボールを捕球する所)を叩いた。

すると、ウェブ(網の部分)の辺りに違和感を感じた。

よく見ると、所々切れ込みが入っているのが分かった。

「……!!」

予備のグラブを取りに戻るにはもう時間はなかった。

「高柳専務、何かあったのかな……しきりにグローブ気にしてる」

スタンドで見ていた仲里が、首を傾げ、由弦を見ていた。

以前のような、自信に溢れた真剣な眼差しではなく、苦痛にも似た真顔のようだった。

体は思うようには動かず、つまずき、ボールを取り損ねる由弦。

それを見ていた珉珠も、普通ではないことを感じていた。

取ったかと思えば、網目が裂けて、ボールはこぼれ落ちる。散々だった。

何とか食らいついて、ボールを追いかけても、ほとんど取ることは出来なかった。

見に来ていた、甲斐たちも、

「今日の専務~何だか調子悪そう。ボール落としてばっかり。何だか走りにくそうだし~」

仲里は分かっているだけに、見ているのが辛かった。

弦一郎も、どこか由弦の様子がおかしいと、不思議に思った。

それを見ていた慶太はほくそ笑んでいた。

―――― それでいいんだよ!由弦!兄上より優れていてはいけない!兄上よりも目立ってはいけない!

< 242 / 389 >

この作品をシェア

pagetop