漢江のほとりで待ってる
「だ、大丈夫ですか!高柳専務」
気まずそうに声をかける仲里。
何も言わない由弦を見て、
「……!!高柳さん、血が出てますよ!」
仲里が触ろうとすると、それよりも先に由弦は頬を荒く触り血を拭った。
「青木さん、何もあそこまで言わなくても……さっき副社長から、何か言われたんですよね?私のいた所から、副社長の表情が見えて、その顔が憎たらしくて!だからその言葉に、高柳専務怒ったんでしょ?」
「……」
「専務を怒らせるくらいだから、きっと青木さんのことを、副社長が何か言ったじゃないですか?」
「……」
由弦の胸はきゅうきゅうと泣いていた。
立っていられないほど辛い。胸が締め付けられるほど苦しい。
「そんなに好きなら、どうして素直に好きだと伝えないんですか!」
「もう遅いよ。だってオレが彼女を忘れてたんだから」
「それは……っ!でも言わなきゃ相手に伝わらない!それに相手もまだ」
「それはないと思う。見たろ?さっきの。思いっきり殴られたよ。兄貴をかばって行ってしまった。こんな女々しい自分が嫌になる!時間が戻ってくれたらって思う。何で事故なんかにって」
悔しかった……恥をかかされたような思いもした。
恋人に裏切られ、殺そうとした奴をかばって自分を殴った、慶太本人は反省するどころか、自分を馬鹿にし、好きな人まで奪って行った。
……それから、婚約パーティーでの、慶太のために着飾った珉珠の姿、とても綺麗だった。
祝福できず、敗北感と嫉妬が自分を呑み込みそうで見ていられなかった。
復讐心が燃え上がるのには十分だった。
もう胸の中には、余裕なんてない。
由弦の心とも言える、鎖で幾重にもして絡めた、厚くて硬い鉄の扉。
哀しみと怒りを封じ込めた扉が、弾き壊れた瞬間だった。