漢江のほとりで待ってる
また時の人となった由弦は、賑わう会場を避け、日本を離れ、韓国へ来ていた。
ある人のお墓に白菊を添えた。
それから、自分にとって懐かしい場所を歩き、韓国で過ごした、楽しかった三ヶ月のことを思い出していた。
―――― キムおばさん……会いたいな。元気にしてるかな?
そのまま、キムおばさんのボランティア事務所を訪ねた。
はじめは、由弦を見た時、彼女は誰か分からなかった様子。
由弦があの時のイ・ジュンだと話すと、驚いたものの、とても懐かしそうに由弦を抱きしめて歓迎してくれた。
「大きくなったわね~!男前になって!立派になったのね」
キムおばさんの言葉に由弦は照れた。
それから、仕事が終わってから、彼女の家に行き、ご馳走を振舞ってくれた。
キンパ(海苔巻き)、ミヨックク(わかめスープ)、タッカンマリ(鶏の一羽丸ごと入った水炊き鍋)、キムチ、トッポッキ。
変わらない、あの味だった。
十年前の記憶が一気に蘇って来た。
死ぬことまで考えていた、辛い気持ちを引きずって生きていた自分を救ってくれた人。
キムおばさんの気持ちが温かく、胸の中が熱くなって、何だか泣けて来た由弦。
何も聞かず、そっと肩を叩いて察してくれる。
そして、おかずをたくさん、ご飯の上に乗せてくれた。
初めてここに来た時も、そうしてくれた。
―――― ここは何も変わってない。温かい……
その夜、昔話に花を咲かせた。
すると、キムおばさんが、「一晩泊って行きなさい」と言い、由弦はその言葉に甘えた。
何だか、切なくて、温かくて、訳の分からない気持ちでいっぱいだった。
朝、キムおばさんの顔を見ると、別れが辛くなると思い、早朝、由弦は、感謝の言葉をメモに書いて、そっと家を出た。