漢江のほとりで待ってる
博覧会は、今までにない反響と盛況。
情報番組などに「高柳由弦氏をぜひ、うちの番組に」と出演のオファーが多く来ていた。
高柳本社では、本人の行方が分からないとは言えず、その対応に追われていた。
避けている、父、弦一郎からの連日の電話。
渋々出ると案の定、本家に来いという催促。
韓国から日本に戻った由弦は、本家には行かず、何となく気が向いて、自分の手掛けた展覧会に出掛けたみた。
あまりの人の多さに、思わずびっくりする。
そのまま自分の絵が飾ってあるブースへ行った。
そこで一人の年老いた男性に声を掛けられ、名刺を渡された。
椿岩山と名前が書かれてあり、肩書は墨絵師。
「えっ!?あの椿岩山!?」思わず由弦は声を出した。
彼は優しく笑ってうなずいた
その世界ではかなり有名で、巨匠とも言われている。
少し立ち話をして、由弦の絵が好きで、個展を開くのを心待ちにしていたという。
アメリカで活動をしていた時代からのファンで、実際に手掛けたキャラクターのことや、デザイン画について、その頃と今の違いなど、詳しく話して聞かせた。
自分のことを自分以上に知っているようで、ファンだというのは、あながち嘘ではないと思えた。
椿氏は、互いにジャンルは違えど、感性がとても似ているとも言った。
「博覧会終了後には、君の絵を全て引き取りたい」とまで言って来た。
聞くと、小さな画廊を経営しているらしい。
展示スペースに、由弦の絵をぜひ、飾りたいと言う。
由弦自身も保管する場所に困っていたため、願ってもない申し入れに、快く受け入れた。
その椿氏とは、なぜか初めて会ったような気がしなかった。
最初から知っていたような、とても懐かしい雰囲気を漂わせた老君だった。