漢江のほとりで待ってる
翌日、離れにいる祖父の所にやって来た由弦。
挨拶もそこそこに、
「折り入ってお爺様にお願いがあります。お爺様の持っている株全てを、オレに譲ってください」
「!?譲っても構わないが、いきなりどうした?そんなものに興味など持たなかったお前が。一体、何を企んでいるんだ?」
「企むなんて、そういうのではありません。高柳グループをもっと発展させたいと思ってるだけです」
「……」
祖父は何か見透かしているように思えた。
「正直言うと、兄貴に負けたくない!いや、全てを奪ってやりたい。この家も全て何もかも!」
「ふん~。そうだな?後継者の座も奪われ、日陰の子と言われ、兄ばっかりがいい思いをしている。生粋の血を引くお前が遠慮するのも可笑しな話だ。いいだろう。譲ってやる!お前がどこまでやれるか、見せてもらおうじゃないか。遺言書も全てお前が譲渡するように書き換えてやる」
祖父の弦吾がゆっくりと言った。
「お爺様……」
弦吾は、由弦がどんなことをしようと、見届けようと思っていた。
それは罪滅ぼしでもあった。
弦吾はしばらく考えて、
「由弦、ワシが後ろ盾になってやろう。それくらいのことをしても罰は当たるまい」
「えっ!?」
「例え愛人の子であろうと、お前は歴としたワシの孫だ。分かっていながら、お前達親子から父を引き離し、幸せを奪ったのに違いはない。守りもせず、ただただ背中を向けたまま排除した。許してくれ由弦。このワシの残りの余生、お前にくれてやる」
弦吾は、当時のことを話し出した。
祖父、弦吾が社長を退き、弦一郎にその座を譲った時の高柳は、保守的で、伝統や品位を重んじ、世間体や体裁ばかりを気にする時代だった。ゆえ、愛人の子など、汚点そのもの。
まして部下に手をつけたなど、世間に知れたら、高潔と品位を重んじて来た高柳グループのイメージを損なう。
自分が退いたあとすぐ、弦一郎の代でそれを崩すわけにはいかない。
弦吾は弦一郎を情けないと思い、毎日のように罵倒し続けたという。
どれほど愛し合ったか二人を、非情にも引き離したと、弦吾は語った。
「あの時のワシには心などなかった。……好きにしなさい、由弦。このままじゃ、お前も、死んだお前の母も報われまい」
「……」
離れから出た由弦は、祖父の言葉に愕然とした。
祖父が一番の根源だったなんて、思いもしなかった。
足元がふらふらになった。
その祖父が、自分のやろうとしていることを悟り、あえて後ろ盾になろうとしてるのか!?
それで罪滅ぼしでもしようというのか!?
「どいつもこいつも今になって!今更!!ふざけるな!!ただ自分自身が可愛かっただけの話じゃないか!好きにしろ?そんなことでオレの二五年という歳月を許せというのか!!」
由弦の中に、例えようのない怒りが込み上げてくる。
―――― ああ!好きにさせてもらうよ!
由弦は、臨時株主総会の招集通知を、株主達に発送した。
二週間後には、臨時株主総会を開くというものだった。
このことは、弦一郎や慶太の耳にも入る。
古くからの友人であり、高柳の株主でもある社長から、「後ろ盾は、君の父である弦吾氏で、慶太君に代わり、由弦君を社長の座に就かせるようだ。高柳の政権や体制を変えようというのかな?」と言って来た。
「父上が!?」
弦一郎が慌てて弦吾に連絡を取るも、繋がらない。
弦吾の方も「かかって来よったわい」と思いながら、一切取り次がなかった。