漢江のほとりで待ってる
その時、同じように招待されていた珉珠もバルコニーに出て来た。
溜息を吐いたあと、何気に辺りを見渡すと、由弦の姿が見えた。
ドキッとするも、そのすぐ横に、紫苑もいた。
しばらく二人を見ていると、
「あなたが好き……」
紫苑がそう言ったあと、少し背伸びをして、由弦の頬にキスをした。
彼女の切実な思いが伝わって来る。
由弦は悲し気な表情で、紫苑を見つめた。
それを見た珉珠は、胸が痛むような、締め付けられる思いがした。
ふと、由弦が顔を上げると、珉珠がこちらを見ている。
「迷惑ですか?」
自分から視線を外した由弦に、紫苑が問いかけた。
「……」反応がない。
紫苑は、一点を見つめる彼の視線の先を辿った。
するとそこに、珉珠がいた。彼女もまた、由弦を見つめている。
互いに、切なげに見つめ合う。
「お知り合いですか?」紫苑は尋ねた。
「あ、僕の秘書してくれている人です。紫苑さん、体を冷やしますから、中へ入りましょう」
そう言うと、珉珠の視線を絶ち切って、そっと紫苑を優しくエスコートして、二人は中に入って行った。
紫苑は、そう答える由弦の言葉を、その時はそれだけだと思っていた。
けれど、レセプションやイベントに出席する度、その光景を、紫苑は何度も目の当たりにする。
―――― いつも由弦の視線の先にはあの人がいる。もしかしたら由弦さんはあの人のことを?
由弦の哀しい顔や、心ここに在らずな態度から、紫苑はそう思い始める。