漢江のほとりで待ってる
鷹司邸の昼下がり、紫苑は、由弦の気持ちを確かめたくて、でも聞くに聞けない、でも気になる、
「あぁ~わたくし頭がおかしくなりそうだわ」
頭を抱えていた。
最近元気のない様子に、紫苑の祖父も心配していた。
「紫苑、最近元気がないようだが、大丈夫か?久しぶりにお茶でもどうだ?」と誘ってみた。
「お爺様?わたくしとっても忙しいの、お爺様のお相手をしている暇はなくってよ!」あっさりと祖父の誘いを断った。
―――― 毎日こんなモヤモヤした思いをするなんて。この気持ちを解消するには、やっぱり由弦さん本人に聞くしかないわ!
悩みに悩んだ揚げ句、紫苑は由弦をお茶に誘って聞くことにした。
鷹司邸のサロン。
優しい日差しが差し込んで来る、広い空間。
ワイルドストロベリー柄でお馴染みの、茶を嗜むものなら誰でも知っている、あのブランドの、この日は白地に小さなピオニーの花が一つ描かれたティーカップに、紫苑は紅茶を注いで由弦に差し出した。
「いただきます」
一口飲んだ由弦は、「あ、これはあのブランドの煎茶……」呟いた。
白いカップに煎茶の緑が、暖かな日差しの中で引き立っていた。
―――― まだ味覚や嗅覚は大丈夫みいたいだ。
心の中で安心する由弦。
「……はっ!由弦さん、お茶にお詳しいのですか?」
「いえ、詳しくはないですが、コーヒーより紅茶の方を好みまして、このピラミッドの形の紅茶は、アメリカでホテル暮らしをしていた時よく飲みました。アメリカの人達は、これに砂糖を入れて飲んでいましたよ」そっと笑って答えた。
「そうでしたか~何だか素敵!でも煎茶なのにティーカップでお出ししてしまってごめんなさい。ぎりぎりまで白茶にしようか、アールグレイにしようか悩んでしまいました」
その言葉に軽く笑い返した由弦は、
「そのお気持ちだけで十分ですよ?ところで、僕を招待してくださったのは、何かお話でもあったのでは?」
「あ、はい……えっと、実は、この間の、秘書の方のお話~」
「あぁ、青木さんのことかな?」
「青木さんとおっしゃるんですね?そのお方のことなんですが……由弦さん、お好きなのですか?」
紫苑の率直な言葉にびっくりした。
「どうして?」
「パーティーなんかで、いつもそのお方のことを見ていらしてるから」
「……ふ~、気のせいですよ?それに彼女は僕の兄のフィアンセですから」
「そうなのですか!?あ、でもそのお方に対して、何の感情もありませんか?」
「はい」
「ほんとに?青木さんってお方も、何となく由弦さんに思いを寄せてるような気がして」
「それはないですよ。ホントに何でもありませんから」
彼自身がそう言うのだから、何となく腑に落ちない気はするも、心に不安を残しながら、由弦の言葉を信じようと思う紫苑だった。
そんな二人を見ていて、紫苑の複雑な思いも知らず、祖父の鷹司社長は、
「紫苑は由弦君をとても気に入っております、何より毎日とても楽しそうにしている、その笑顔を私は永遠に守りたいと思っています。どうでしょう?由弦君と紫苑を、結婚を前提にお付き合いさせては?」
と弦一郎に言って来た。
「そうですね、由弦も満更でもないようですし、それにあんなに可愛らしいお嬢さんだ、まして鷹司社長のお孫さん。不満などないでしょう」
弦一郎も賛成した。
年寄り達が、二人をくっつけようと、陰でお節介を始める。
事故や珉珠とのことで、苦しんだ由弦に、全て早く忘れて、幸せになってもらいと思う、弦一郎なりの親心だった。
それと、きっと今企てていることを止めてくれると、淡い期待をした。