漢江のほとりで待ってる
浅はかなパーティーの当日。
鷹司邸でも、
「どういうことですか!お爺様!わたくしと由弦さんの婚約だなんて!」
「嬉しいだろ?紫苑」へらりと目じりを垂れ下がらせて、鷹司社長は言った。
「わたくしはまだ由弦さんから直接プロポーズなんてされてません!勝手に決めるだなんて、それに由弦さんのお気持ちも考えず、お爺様って最低!わたくし高柳家のパーティーには行きませんから!それとお爺様とはしばらく口も聞きたくありません!」
ぷいと背中を向けて、怒って紫苑は部屋に閉じこもってしまった。
「し、紫苑……」
鷹司社長は、紫苑の機嫌を損なってしまい、今日のパーティーは欠席させてほしいと伝えて来た。
それから紫苑の機嫌を直すのに苦労していた。
由弦は、浮かれた高柳一族の顔でも拝んでやろうと、あえて本家に出向いた。
思っていた通り、弦一郎を始め、慶太が上機嫌で座っていた。
すでに出来上がっている状態だった。
「お~由弦来たか!座りなさい!お前も飲みなさい」と弦一郎。
それに続いて、
「お前にも春が来たな?おめでとう!」と慶太。
本当に身内だけの、祝賀会となった。
酔った勢いで、珉珠に、テーブルにあるご馳走を、自分の口を指して食べさせろと慶太は言った。
珉珠は呆れながらも、それに従った。
珉珠が由弦の前で、自分の言うことを聞くのが嬉しかった。
由弦はそれを見て、イラっとした。
醜態を晒す、腑抜けになった二人。
そこへ、
「どうして好きなデザインの依頼を断るんだ?由弦、お前が受けてくれたら、さらに高柳グループにも良い相乗効果になる!」
言ってはいけない一言を弦一郎は、由弦に放った。
それでなくても由弦の中に、メラメラと怒りの炎が燃え盛っているというのに、弦一郎はまさに油に火を注いだのだ。
「そうだな?お前の仕事って言えばそれくらいだからな?貢献するには依頼を受けるしかないだろ?ハハハハハハ~っ!」高笑いする慶太。
由弦の心は臨界状態。
「こんな体で……」
由弦の小さな声に、一瞬場は静まり返った。
「何だ?由弦!はっきりと言え!その体じゃ~満足に走りも出来ないよな?あの野球大会は見ものだったぞ!」いい感じに酔いの回った慶太は、笑いながらさらに由弦を煽る。
「こんな体で何を描けって言うんだ!!」
由弦は叫び、テーブルに乗っていた豪華な食事を散らし、勢いでテーブルごとひっくり返した。
突然のことに慶太は、金魚のように口をパクパクさせ驚いた。
それからすぐ、壁に立てかけてあった、弦一郎のゴルフクラブを持ち出し、暴れ出した。