漢江のほとりで待ってる
雅羅はずっと恐怖で叫んでいた。
珉珠は呆然としている。止めようにも、腰が抜けて動けない。
「止めないか!由弦!」弦一郎は何とか、声を出した。
「食えよ!その床に落ちてるの食えよ!!パーティーなんだろ?食えって!無理だろうな?坊ちゃんお嬢ちゃん育ちのあんた等には!オレは食えるよ!」
そう言うとおもむろに、落ちているおかずを手に掴んで食べ始めた。
雅羅は、由弦から目を逸らした。
「由弦……」珉珠は由弦の姿が泣いているように思えた。
慶太は吐きそうになっていた。
驚いた弦一郎は「止めないか!由弦!こんなことして!」叫んだ。
「こんなこと!?それはこっちのセリフだ!!勝手に何やってくれてんだあんたっ!!オレの気持ちは無視か!!いつでもお前のことは気に掛けてる、そんなフリばっかりして結局あんたの中にはオレのことなんて頭にないんだよ!!いい親父ぶってんじゃねぇよ!!バカにしやがって!兄貴の気持ちを汲めだと!?オレの気持ちはどこにあんだよ!!いつもいつもオレは二の次三の次で、あんたらの中にはオレは数に入ってない!だから無視出来んだよ!都合よく扱いやがって!何十年も放ったらかしにしておいて、オレはずっと一人だったんだ!今更親父面すんな!あんたなんか、親父でもなんでもない!」
そう言うとまた、暴れはじめた。
「誰か!由弦を取り押さえろ!」弦一郎が言った。
すると、警備の者がやって来て、二人係で由弦を抑えつけた。
「放せ!放せよーっ!」
由弦の目には涙が溢れていた。
それを見た珉珠は
「由弦を放して!」
と叫んだ。
一瞬警備の手が緩んだすきに、由弦はそれを振り払い、
「オレだってお前なんか兄貴だなんて思ったこともねぇよ!!大っ嫌いだよ!親父も!雅羅さんも!青木も!椎名さんも!オレは絶対に許さない!オレを殺そうとしたあんた等を!!」
口の周りを汚したまま、雅羅や珉珠を指さして吐き捨てた。
ゴルフクラブを放り投げ、由弦は慶太の胸ぐらを掴み、思いっきり三発顔面に食らわせた。
慶太はクラクラとよろめき倒れた。
「なぁ?人のものばっかり取って満足か!!満足だろうな?楽しくてしかたねぇだろ!!人のものしか取れないせこい人間だもんな?知ってたんだろ?その野球大会もオレがこんな体だから勝てるって!だから殴られても痛くも痒くもないだろ!」
息を切らせながら慶太を睨みつけた。
慶太の顔を見ていたら、色んな事が思い出され、怒りが止められなくなった。
立ちはだかる由弦に、恐怖のあまり、慶太は声が出ない。
「おい!あんたの大事な旦那が殴られてぶっ倒れてぞ!!介抱してやれよ!そんっなにそいつのことが忘れられないんなら、最初からオレに気のあるフリなんかすんなよな!」
今度は珉珠に向かって吐いた。