漢江のほとりで待ってる

「頼むから、会社も何もかもくれてやるから、何も望まないから!だからオレの体を元に戻してくれよ!!この手が自由に動かせるように!!目がちゃんと見えるように!!頼むから絵が描ける体に戻してくれよ!!!」

泣き叫んで訴える由弦。

弦一郎も、こんな由弦を見るのは初めてで、驚く以上のことは何も出来なかった。

何とか立ち上がった珉珠は、由弦の所まで辿り着いた。そして由弦に触れようとした。

「また殴んのかよ!あの時みたいに!!」そう言うと珉珠を憎々し気に睨みつけた。

「違う……」

「殴れよ!兄貴殴った敵取ればいいだろ!クールで仕事の出来る高柳の長男で御曹司と、結婚でも何でもしちまえ!!」

吐き捨てて、ふらふらになりながら、由弦はその場から去って行った。

取り残される珉珠。

それ以外の者は、放心状態のまましばらく身動きできずにいた。

食器棚の扉のガラスも割れ、絵画も破れ、ガラスの破片は散乱し、料理もこぼれ落ちて床一面を汚していた。

部屋はめちゃくちゃだった。

珉珠はやり切れない思いで辺りを見渡した。

床に視線をやると、血が落ちている。

それを辿ると、由弦が歩いたあとに続いていた。

「……!?由弦!」

珉珠は、由弦がどこか怪我をしているのかもしれないと思い、足はガクガク震えていたが、由弦のあとを追い掛けた。

追いついた由弦の手の辺りから、血がしたたり落ちていた。

由弦の手を掴むと、由弦は珉珠と分かるなり、

「あんな奴に抱かれた、そんな汚い手でオレに触るな!!あんたなんか大嫌いだ!!」

押しのけて行ってしまった。

「由弦!」

珉珠はその場にへたり込んでしまった。

リビングにいる慶太は、腰を抜かしているようだった。

「こ、殺されるかと思った……は、鼻血が出てる!母上~」

誰も慶太に寄り添うことはなかった。

< 284 / 389 >

この作品をシェア

pagetop