漢江のほとりで待ってる
「頼むから、会社も何もかもくれてやるから、何も望まないから!だからオレの体を元に戻してくれよ!!この手が自由に動かせるように!!目がちゃんと見えるように!!頼むから絵が描ける体に戻してくれよ!!!」
泣き叫んで訴える由弦。
弦一郎も、こんな由弦を見るのは初めてで、驚く以上のことは何も出来なかった。
何とか立ち上がった珉珠は、由弦の所まで辿り着いた。そして由弦に触れようとした。
「また殴んのかよ!あの時みたいに!!」そう言うと珉珠を憎々し気に睨みつけた。
「違う……」
「殴れよ!兄貴殴った敵取ればいいだろ!クールで仕事の出来る高柳の長男で御曹司と、結婚でも何でもしちまえ!!」
吐き捨てて、ふらふらになりながら、由弦はその場から去って行った。
取り残される珉珠。
それ以外の者は、放心状態のまましばらく身動きできずにいた。
食器棚の扉のガラスも割れ、絵画も破れ、ガラスの破片は散乱し、料理もこぼれ落ちて床一面を汚していた。
部屋はめちゃくちゃだった。
珉珠はやり切れない思いで辺りを見渡した。
床に視線をやると、血が落ちている。
それを辿ると、由弦が歩いたあとに続いていた。
「……!?由弦!」
珉珠は、由弦がどこか怪我をしているのかもしれないと思い、足はガクガク震えていたが、由弦のあとを追い掛けた。
追いついた由弦の手の辺りから、血がしたたり落ちていた。
由弦の手を掴むと、由弦は珉珠と分かるなり、
「あんな奴に抱かれた、そんな汚い手でオレに触るな!!あんたなんか大嫌いだ!!」
押しのけて行ってしまった。
「由弦!」
珉珠はその場にへたり込んでしまった。
リビングにいる慶太は、腰を抜かしているようだった。
「こ、殺されるかと思った……は、鼻血が出てる!母上~」
誰も慶太に寄り添うことはなかった。