漢江のほとりで待ってる
手がダメならと由弦は、さっきの落ちたスプーンで食べようとした。
「もう、由弦、スプーン取り換えるから待って!」
「いい加減にしろって言うからスプーン使おうとしたんだ!取り換えてくれなくてもオレはこれで食べられるし!どっかの坊ちゃんとは違うから!オレと一緒にいて気分悪いなら、来なきゃいいだろ!」
「だから、気分悪いなんて思ってない」
珉珠は持ってきたスプーンを、溜息吐来ながら由弦に渡した。
受け取った由弦は、しばらくスプーンを見つめた。
それからスプーンを持ち直し、食べよとした由弦の表情は、眉を寄せていた。
持つ手が震え、ぎこちなく、うまくすくえず、やっと口に運んだ時には、ほとんどスープは残っていない。
それを見て珉珠は驚き、何で彼がスプーンを使わなかったか、いや、食べるのを躊躇ったか、やっと悟った。
手が動かないその姿を、自分に見せたくなかったからだと。
珉珠は、何も気遣ってやれなかった自分に嘆いた。
ただ傍にいればいいなんて、単純に思ってたその浅はかさに、苛立ちさえ覚えた。
珉珠は、スプーンを由弦から奪い取り、食べさせようとした。
由弦は顔を横に背けた。
「お願い、食べて?そこまでだなんて思わなかったの。ごめんね?そりゃ思うように動かなかったら、食べることさえ嫌になるわよね。ホントにごめんね、由弦」
顔を横に向けたままの由弦。
「口開けて?お願い」
「オレにじゃなく、兄貴にすればいいだろ!兄貴のあのバカ面に食わせてやればいいだろ!!あの日の勝ち誇った、親父と酒食らって醜態さらしたアイツに!」
それを言われた珉珠は、酔った慶太が食べさせろとせがんで、食べさせたことを思い出していた。
「もう帰ってくれ!お願いだから。くだらないことに一々腹を立てたくない。もう醜態晒したくないんだよ!」
椅子から立ち上がり、珉珠に背中を向けた。
思ってた以上に由弦の心は荒んでいた。
「由弦……」
「あの日、本家でめちゃくちゃにした時も、体が思うように動かないと思ったら、あなたが庇う兄貴を一瞬本気で殺してやろうかと思って殴った。それよりも、オレをこんな目に遭わせた椎名おじさんを殺したいって思った。でもあの人は牢屋に入って守られてる!母さんを一人寂しく死なせた親父も!オレを邪魔者扱いして来た雅羅さんも許せない!オレを捨てたあなたはもっと許せない!あなたといると色んなことを思い出してしまうから、抑えてた嫉妬心も憎しみもあなた一人にぶつけてしまいそうだから!だから帰って!もうこれ以上オレに関わらないで」
由弦は必死で涙を堪えた。