漢江のほとりで待ってる
「由弦、そんな言い方はないだろ?父上は本当のこと言ってるんだ。私のことは何を言っても構わない。でも父上にそんな言い方をするな!それと会社の人間は関係ない。傷付けてはいけない。それにこんなことしたって、何の得にもならない。秘書をやってる青木君にも迷惑を掛けるだけだ。彼女を悲しませるな!お前だって虚しさが残るだけだろ?お前が辛くなるだけだ」
慶太は由弦をなだめようとした。
「秘書の青木さんならとっくに辞めましたよ。オレが社長になってすぐ、その日にね」
「そうなのか!?」
「兄貴との結婚式を控えてたから、気を使ったんじゃない?まさか惚れ直した?」
「何を言ってるんだ!それでお前何もせずにいるのか?」
「はっ!よく言うよ!それ望んでたくせに!一体どの口が言えるんだろう。呆れてしまう。兄貴って意外と頭悪かったりする?何か、いい人気取り?これがドラマなら、きっと兄貴の好感度上がるだろうよ?悪いことした人間が改心したら、視聴者は「よく耐えた!頑張ったな~!」って褒めちぎると思う。それに引き換え、やられた側が伊達に復讐心燃やすと非難浴びるんだよね?「そこまでやらなくても!もう許してやれよ!いつまでもしつこいな~!」って言われ出す!ほんとやり切れない!いいよね~?悪いことした奴は立ち直れば済むんだから!何でも先にやったもん勝ちだよね?実際兄貴はそうなった。罪を償い、心を入れ替えて会社盛り返し?記憶のない弟の面倒まで見て?今度は彼女を譲った!哀しみを背中に一人生きて行く長男慶太!健気な姿見た視聴者は泣くよ。ならもっと世間に対する兄貴の好感度上げてやるよ!オレがもっと苦しめてやる!世間はオレに反感さえ買うだろうよ!兄貴の思惑通り、最高のエンディングになるよな!」
由弦は憎々し気に笑った。そして、
「会社を追い出された所で、家を失くしても、お金がある分、食べることには困らないでしょう?喪失感も絶望感もないだろ?だって二人共まだ余裕ありそうだもん。オレ、盗作したって言われて泥棒扱いまでされて、殺されかけたんだよね?会社も失って、揚げ句記憶も好きな人も失った。辛かったよ。一言で言ってしまえばそれまでだけど、それ以上に苦しんだんだ。ホントによくもオレの前に顔を出せたもんだ!周りが何と言おうと、オレは許さない!」
「由弦……」
許しを請うように弦一郎が言った。
「申し訳ないですが、これから会議なんです、これで失礼します」
「由弦!待ってくれ!」
二人が呼び止めても振り返ることなく、由弦は社長室を出て行った。
振り切って出て来た由弦だったが、「—————— お前が生まれた時、どんなにお前の母さんと喜んだことか。お前を片時も忘れたことなど—————— 」、弦一郎の言葉が頭を過り、心が揺れる。