漢江のほとりで待ってる
その頃、珉珠は、ずっと由弦の体のことを心配していた。
まだリハビリも必要な体だというのに、会社復帰したことを、仲里から聞かされる。
彼女とは、いつかの夕飯の食材を買い出しに行った時、店内で偶然出会った。
仲里自身も、その時間帯には滅多に行かないらしいが、その日はたまたま仕事が早く終わったとかで、ほんとに珍しいことだったらしい。
その時に、少し横暴とも思える、由弦の仕事ぶりなど、最近様子がおかしいと仲里は言い、また慶太と弦一郎がやって来た話も聞かされた。
仲里は慶太が来ていたことを知らなかったから、「顔ぐらい出してくれてもよくないですか?」と、慶太に対し不満を漏らしていた。
二人がどんな理由で会社を訪れたかは知らないが、秘書の話によると、弦一郎と慶太を社長室に残したまま、不機嫌な顔で由弦が出てきたそう。
珉珠は大方の察しがついた。
おそらく、会社を潰す計画を止めるために、二人が訪れたこと、そして、一番は由弦に謝罪。
でもそれも上手く行かなかった。
それもそのはず、ついこの間、誤解とは言え、由弦を傷つけたばかりだった。
なのに、あえて出向くとは、傷口に塩を塗るようなもの。
今でも由弦の中に、大きな傷が残っているというのに、慶太の無神経さに珉珠は呆れた。
仲里の話から、珉珠は日を置いて、慶太との誤解を解くためにも、由弦に会いに行った。
ちょうどその時、紫苑が来ていたことを珉珠は知らない。
同じように、あの庭園のある部屋まで通された珉珠。
一枚の写真のような、夏の日本庭園に、心を奪われかけた時、二人の姿が目に飛び込んで来た。
特に目を引いたのは、涼し気な薄グリーンのワンピースに、麦わら帽子を被った紫苑だった。
彼女の垂らした髪が風に揺れる。
まるで、おとぎ話から抜け出してきたような、夏の妖精。
珉珠にはそんな風に映った。
並んで立つ二人は、とてもお似合いだった。
珉珠は気後れして、声を掛けることが出来ず、何も言わずに帰って行った。
来た道を帰りながら、珉珠は心を痛める。
—————— あなたを何度諦めたら、この胸は痛くなくなるかしら。やっと追いついたと思ったら、何かが必ず邪魔をする。あなたを思って離れると裏目に出てしまう。一体私はどうすればいいの?心穏やかに、あなたと笑って過ごしたいだけなのに。ただあなたが好きなだけなのに……
珉珠は苦しんでいた。
色々考えて、母の顔が思い浮かんだ。
いずれは、母の所に帰るつもりをしていた。
体のことも心配だったし、会社も辞めたこともあり、いい機会だと思い、故郷へ帰ろうと思った。