漢江のほとりで待ってる
由弦の気持ちはすでに空港に向かっていた。
気持ちと裏腹に、車は渋滞し進まない。
交通整理に警察が出る始末。
聞く所によると、一キロ先で、高速道路を工事中に橋桁が落下した事故があり、数台の車が巻き込まれたとか。
由弦はなぜか嫌な予感がした。
車を降りて、事故現場へと走り出す由弦。
近付くにつれて、橋桁の下敷きになって押しつぶされる車を目の当たりにする。
さらに進むと、放心状態の男が突っ立っていた。
見ると慶太だった。
「兄貴!何があったんだ!」詰め寄る由弦。
話し掛けても反応はなく、視線は定まっていない慶太。
由弦は胸ぐらを掴んで、
「兄貴しっかりしろ!何があったんだ!珉珠さんも一緒なのか!」
慶太を揺さぶった。
すると慶太は、我に返ったのか、「青木君が……」と高架下を指さした。
指す方向を見ると、何台もの救急車と消防車が来ていた。
「……!!」
由弦は高架下へ駆け寄った。
中は物々しい空気が漂っていた。
さらに奥を見ると、橋桁の下敷きになり、無残にも破損した車があった。
その車に走り寄ろうとした由弦を、警察官が、
「車からガソリンが漏れ、引火の恐れがあるので、危険なので戻ってください!!」近寄るのを阻止した。
その声も振り切り、規制のテープを越えて中へ入って行った。
中では、自力で車から出て来た人もいた。
おそらく慶太も自力で脱出したと思われる。
珉珠を助け出そうとする慶太を、二次災害の恐れで、消防隊員や警官が外へ出るよう促したんだろう。
順に助け出されて行く中、辺りを見渡すと、破損した後部座席に、取り残された、意識を失っている珉珠がぐったりとしているのが見えた。
由弦は駆け寄り、
「珉珠さん!珉珠さん!」
扉をこじ開けようとした。
「部外者は出てください!とても危険な状況です!安全確認がなされるまでは、外へ出てください!」
一人の消防隊員が、由弦を規制線より外へ連れ出そうと叫んだ。
「大切な人なんだ!行かせてくれ!」
由弦は消防員を押しのけ、珉珠を救い出そうとした。
自分の危険も顧みず、その必死な姿に、消防員も心打たれ、持っていたバールで扉をこじ開け始めた。
それを見て、扉が外れると、由弦は素早く珉珠を抱き起こして、車から離れた。
彼女の右の額から血が流れていた。
「珉珠さん!しっかりして!」由弦が叫ぶ。
「早く救急車!」消防隊員が叫びながら、由弦を誘導した。
運ばれながら、朦朧とした意識の中、薄っすらと目を開く珉珠。
—————— 由弦……!?
すぐにまた気を失った。