漢江のほとりで待ってる


慶太は、一条からの一報に怒りを露わにした、がしかし、クライアント側が断って来たこともあり、この一件が広がる前に何とか手を打とうと焦っていたのも事実。

なぜなら今まで、断ったことはあっても、依頼を断られることのなかった慶太に、汚点がついたのだから。

頭を悩ませる慶太を見て、秘書となった椎名が、

「坊ちゃん、この際、プライドは捨てて、最初の企画に戻しましょう。その方が最善策かと」

「この私に、頭を下げろと?他はいいとして、あの由弦に?頭を下げろと?」

苦痛に顔を歪ませ、椎名を見た慶太。それにうなずく椎名。

仕方なく慶太は、クライアント側に謝罪し、当初からの意向を約束し、CM作成の続行を願い出た。

また広告代理店である通博にも謝罪し、信頼回復に努めると伝えた。

そしてAwakenの社長一条とアートディレクターの旭にも頭を下げた。

最後に、由弦にも、言い訳しながらも謝罪し、クリエイティブディレクターに改めて就任するよう伝えた。

制作チームは本社に対して疑念を抱きながらも、改めて気を取り直して、制作会社と共に、タレントのスケジュールを抑え、ロケの日取りなどの調整を始め、そして撮影に入り、最後の納品まで責任を果たした。

そのCM効果は想像以上のもで、SNS上で瞬く間に広まって行った。

商品である炭酸飲料の甘酸っぱい味と、「何も壊さず進化していく」「優しいのに激しい」のキャッチコピーが、新旧の融合で新しいものを生み出す、と言ったCMの効果で、ターゲットとしていた年齢層も、思惑通りにハートを掴んだ。

商品の売り上げも今季一番となった。

クライアント側からも、予想をしていた売り上げを遥かに超えたと、喜びの言葉をもらい、延期や白紙の足踏みをした問題点も帳消しとなった。

更には、若き天才クリエイターの由弦と一条には、かつて会社を立ち上げた仲間で、学友でもある二人に取材が殺到した。


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