漢江のほとりで待ってる
日曜の朝、珉珠はいつものように教会へ。
礼拝を済ませ、心穏やかに教会を出ようとした時、「青木君!」と誰かが声を掛けて来た。
今までに、そんな風に声を掛けられたことがなかったのに。
振り返ると、副社長の慶太だった。
「ふ、副社長!?」
「やあ、もしやと思ったけど、やっぱり青木君だったか。君も教会に通ってるのかい?偶然だね?」
「え!?あ、はい」
「いや~、ここんとこ通えてなくてね。行かなきゃいけないと思いながら、先延ばしにしていたんだが、今日思いっ切って来てみたら、なんと、君に会えるとはね?こんな素晴らしいことはない。どうかな?このままランチでも?断る理由はあるかな?由弦が帰るのは早くても今夜、もしくは明日の朝だね?」
なぜ由弦の名前を出したのか?慶太の意味深な言葉に疑問を持ちながらも、有無を言わさせない慶太に、言われるままお供する珉珠。
礼拝堂から少し歩いて、高柳家所有のホテルで食事する二人。
「梅雨に入ったとは言え、今日はとてもいい天気だね?それに君に会えるなんて、こんな素晴らしい偶然はないよ」
「……」返事に困る珉珠。
「ん?どうした?元気ないようだが?」
「いえ、そんなことありません」
「そうかい?由弦の秘書をしてどうかな?不便なことはないかな?もし、不満や~」
「ご心配頂きありがとうございます。何も問題はございません」
慶太が言い終わる前に珉珠は答えた。
「そうか。それならいいんだが、由弦が上司となると、君には物足りないような気がしてね。あいつはまだまだ子供だから自分のことばかり考えて、君にも迷惑を掛けているんじゃないかと思ったりしていたんだが」
「本当にお気遣いありがとうございます。専務は立派に業務をこなされていらっしゃいますし、副社長が思っておられるほど、子供ではありませんよ?他人に対しても思いやりの気持ちをきちんとお持ちです」
「おお、君の口から由弦を褒めるなんて意外だったね~。他人やくだらないものに興味を示さない君が、そんな評価をするなんて。君ともあろうお人が、まさか、由弦に関心がある?もしくは、好意的に思っていたり」
「副社長は先ほどから専務のことばかりお話になりますが、何かあるのですか?」
「ん?あぁ~、すまない。別に深い意味はない。もし不満や不自由を感じるのであれば、そう思ってね。とにかく何かあれば、いつでも私に言ってくれたまえ」
「ありがとうございます。でも気を使って頂くほどの不満はありませんし、いえ、それどころか、とても心地良く仕事をさせて頂いています」
「そうか、それならいいんだ」
予想以上に、珉珠の由弦への思いが強いことを知った慶太は、さらに、珉珠を取り戻したい気持ちが込み上げた。