漢江のほとりで待ってる
仕事では、由弦の活躍を知り、来年、大手菓子メーカから、創業五十周年を迎えるにあたり、お菓子博覧会を開催するため、その一大イベントの総合プロデュースと、新しく発売するお菓子のパッケージデザインをお願いしたいとの申し出が来た。
デザインの仕事となると、自分の本業でもある由弦には断る理由などなく、快く申し出を受け入れた。
由弦の活躍のお陰で、高柳グループの広告代理店である、B.A.B株式会社の株が急上昇し、目まぐるしい成長を遂げていた。
弟の活躍イコール、会社の利益に繋がる、本来なら喜ぶべきはずの副社長である慶太は、喜ぶどころか敵対心を抱き、どうにかして今ある由弦のデザイナーとしての信頼を、失墜させたいとさえ考えた。
そこで慶太は、自分も企画案を出して参戦する意思を表し、どちらが互いにメリットがあるかを見極めるため、コンペを行うよう大手菓子メーカに要請した。
大手菓子メーカ側も、最初は困惑しながらも、あの高柳グループの副社長が直々に話を持ち込んで来た、よほど興味深いものがあるのだろうと関心を示し、その話を受け入れた。
由弦にもその話が耳に入ったが、ただ、コンペの相手が慶太とは知らされず、他企業との競争と聞かされていた。
例え誰が相手であろうと、由弦は余計な詮索はせず、全力で臨む!それのみだった。
また慶太は、デザインの事など、自分の人生の中で一番なかったこと。何をどうしていいか分からない。その一切を一流どころへ丸投げした。
由弦が海外でも名前を知らしめているのなら、自分も海外で有名なデザイナーを起用し、「金に糸目は付けない!だから一級品を作り上げろ!」と部下に命令した。
ただ起用する条件の一つとして、名前を出せば誰でも知っているが、今はあまり目立って活躍をしていないデザイナーやアーティストに限定した。
さらに慶太は、大手菓子メーカの社長と接待を設けようとしたが、社長は出席できないと言われ、急遽、上役と今回のプロジェクトの主任がその席に集まった。
内容は、コンペでは自分側に有利に事が運ぶように便宜を図り、その見返りとして菓子メーカー側は多額の報酬を受ける。
社長の意向はともかくとして、その場で交渉は円満、円滑に運んだ。
帰り際、椎名は役員達にあえて菓子箱を土産に持たせた。
慶太の行動は迅速だった。
それとは真逆に、由弦は自分の足で大手菓子メーカに行き、自分の耳で先方が何を求めているかなどの調査を始め、また店頭に置いてある商品を見に行ったり、そのメーカーの歴代の売れ筋商品など調べ上げ、それらを参考にしながら、企業カラーを損なわないデザインを考えて行った。
本社に帰ると、デスクに向かい、デザイン画を描き、また自宅に持ち帰ったりと毎日忙しくしていた。
デザイン画を描いている時の人並外れた集中力と、何よりも楽しんでいる、由弦のそんな姿を傍で見たいた珉珠は、これが彼の本来あるべき姿なのかもしれないと思った。