〜starting over〜
時間は心の傷を癒やし、人は前に進む。
世間がちょっと騒がしい中、Museのラストツアーか始まり、全国各地を飛び回る日が続いた。

「リーダー。杏が色ボケしてます!」
「してないわぁ!」

挙手し、マイに報告する奈々に今日も喝を入れる。
優奈とサヤカパフォーマンスをしている間、トレーナーからマッサージを受けて「はぁ~」と言っただけでこの始末。
本当に、めんどくさい。

「杏」
「何よ」
「今日じゃない?」
「何が?」
「結婚式」
「は?……ああ……」


玲奈と島田君の結婚式。

「私ってさ、杏より地元の人間と交流あるじゃない?」
「うん」
「杏が居なくなってから、真輝は捨てられて当然の人間性だったから、杏は英断を下したって暫く話題だったらしいよ」
「……そう」
「でも、玲奈は学校でずっと1人だったって。あれだけ仲が良かったのに、相方置いて突然退学して、何かあったんじゃないかって周りは勝手に憶測してたらしい」

まぁ私がMuseでデビューした時に、下火になったみたいだけど、と奈々は続けた。
何故、今になってそんな話を持ち出してきたのか。
その意味に気付かないフリをした。

「そんな時に、杏がMuse加入して、皆退学理由が芸能界に入る為だったんだって納得したらしいけど」

現実は、親の負債の為、なのに、聞こえの良い大義名分だわ。
もし……。
それがなかったとして、私は学校に行っていたかしら?
親友も彼氏も失って、あの居心地の悪い場所に。

「それで、皆玲奈に『杏凄いね』て。玲奈はいつも誰に話しかけられても、人当たりのいい対応はするけど、それ以上の関係を作らなかったんだって。だけど、私達が注目が集まるたびに、私と杏が活躍するたび、話題をふると誇らしげに『杏は昔から頑張り屋さんなのよ。杏はもっと大きくなるわ』て自慢気に語ってたらしいよ。でも、最後はいつも悲しそうな顔をしてて、きっと1人残されて寂しいのかもねってなってたらしいけど」

残された玲奈がどうなったかを考えなかった訳じゃない。
ただ、気になる私と、考える必要ないっていう私が居て、いつも後者が勝ってた。
だってそうでしょ?
玲奈は真輝と……。
もし、あの時2人の関係に気付かなかったら、そのまま何食わぬ顔で親友気取ってたの?
愛おしい人から与えられる快楽の魅力は凄まじい。
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