〜starting over〜
私なんか、あれだけ毛嫌いしていた性なのに、湊さんに与えられる快楽に溺れて抗えない。
寧ろ、もっと欲しいと、愛して欲しいと強請ってしまう。
玲奈は、その魅惑に勝てただろうか。
1度だけと言いながら、バレなければ、2度3度と関係を持ったんじゃないかと疑ってしまうのは、私の猜疑心の強さなのかな。

「さ、行くよ」

今話してた内容を無視するかのように、トレーナーさんにお礼を言って移動を開始する。
次は、私達のパフォーマンスの番だ。
舞台下からビョーンと登場して、ライブに勢いをつけるのだ。
位置につくと、スタッフさんがタイミングをはかる。

真輝は浮気ばかりだった。
順位では私が1番でも、実ったはずの恋は、少しずつ形を変えて綻んでいった。
真輝への懐疑心は、募る一方だった。
その募る想いは、色んな感情を生み。
嫉妬・猜疑・不信・不安・苦しみ・意地。
私もだけど(ここ大事)、玲奈も苦しかっただろう。
友達の彼氏。
叶わない恋。
まだ真輝の浮気が本格化しなかった頃、私と真輝を傍で見るのはどんな辛かっただろう。

「湊さん……」

呟いた言葉は、音楽にかき消される。
苦しさに想い人を思い浮かべると、じんわり温かく満たされる。
この音を奏でる中に湊さんが居る。
実は、今日ライブツアーに同行してくれていたバンドのギターが、胃腸炎になり演奏不可能となって、急な事に人員補充できなくて困ってたら、

「良い人いるじゃない!」と、ライブを見に来てくれた事務所社長が、わざとらしく手を口にあてて声をあげ、送る視線の先。
同行していた湊さんにギターを渡したのだ。
Museメンバーも、その手があったか、と期待の眼差し。
湊さん、Whateverでギターもしてたもんね。
不機嫌顔が一瞬驚きの色を見せたけど、現状を考えると最善策と悟ったのか、すぐ楽譜チェック。
チューニングをして、気になる箇所の確認を始めた。
音楽を奏でる姿は、カッコイイ……(惚れ惚れ)。
それでも、一部の経験の浅いスタッフは突然のハプニングに戸惑っているようで。
だから、私は湊さんの隣に座った。
そして唄った。
少しでも、皆の心から不安が薄れるなら。

後日、このシーンにカメラを回されていて、最後のDVDに舞台裏として収録されるとは露知らずに。
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