〜starting over〜

一気に下から押し上げられて大舞台に舞い上がった。
奈々も反対側で登場して、大歓声を浴びている。
どくどくと体中を血潮が駆け巡り、高揚感に包まれた。


アンコールを終えて、時間をチェックする。
概ね予定内にライブは終了した。
まだ歓声が聞こえる中、控室に戻ると、床に倒れこんだり、椅子に座って天井を仰いだり、其々が緊張を緩めた。
私は時計を見た。
……どうしよう。
もう時間がないし、間に合うか解らない。
だけど……。

「あの、私……」

言いかけて、胸が詰まる。
迷ってる暇はないのに、それでも……。

「うん、お疲れ~」

待ってましたとばかりに、奈々が私の荷物を手際よくまとめて渡してきた。

「ライブ中、曲と曲の合間に一瞬気が飛んでたよ。ちょっとした休憩時間も時間ばかり見てた。今日がどんな日か解ってるから……ギリギリかもしれないけど早く行っておいで」
「っありがとう!」

衣装から着替える暇もなく、マネージャーの三浦さんが運転する車に乗り込むと、出待ちをしているファンを振り切り、公道を突き進む。
逸る気持ちが思い描くのは、消したはずの記憶の欠片。
順番に並べれば並べるほど、輝く思い出と、苦しくて苦い思い。
だけど、私達は小さい頃から姉妹のようにお互いを支え合って生きてきた。
私の記憶の中で一番古い物を取り出すと、保育園まで遡って、その隣に玲奈がいた。
小学校に通うのも遠足も部活も、どの場面にも玲奈が隣で笑ってくれてた。

人は、いつまでも同じところに留まってはいられない。

真輝と別れる切っ掛けになってしまったけど、それがなければ私は苦しい日々をどれだけ続けていただろう。
辛くても、幼い恋の先には、永遠の愛があると夢物語のように思えていた。
進行形の恋に、終焉があるとは信じられなかった。

式場となっているホテルに到着すると、従業員がスタンバイしていた。
疑問は「時間がおしていたので、先に連絡させてもらいました」と三浦さんがキリリとこたえる。
なんか、有能なマネージャーに見えてきた。

導かれるまま駆け足で、バンケットホールの扉の前に立つと、懐かしい声が会場から漏れてきた。
式は最終段階にすすんでいるようで、玲奈が女手一つで育ててくれた母に感謝の気持ちを伝えてるようだった。
息を整えながら、不安と期待に胸がいっぱいになる。
この奥に、玲奈が居る。
心臓の音が、身体の内側から食い破るように大きな音を立てた。
< 87 / 104 >

この作品をシェア

pagetop