〜starting over〜
玲奈がした事は許せるものではなかったけど、小さい頃を思い出すと、多くの感情を共にしてきた友なのだ。
その友の新しい門出に、少しでも花を添え、お互いの心の重荷を下ろしてもいいんじゃないかって、囁く自分がいた。

従業員に説明を受けて、暗い会場の中にお邪魔する。
式場には、まだ玲奈の声が響いている。
暗転している中、高砂席の横に従業員が私のステージを着々と用意していく。
急な申し出なのに、ホテル側の配慮が有難いけど、こんな目立つ形の出なくてもよかったのにと心苦しい。
玲奈のコメントが終わると、式場に光が戻ってきた。
私の周りのは白い布がカーテンのように覆われている(逆に恥ずかしい)。

「はい、玲奈さん、ありがとうございました。では、突然ですが、ここで、新郎新婦に、大変嬉しいお知らせがあります」

意味深に強調して、言葉を区切ながら進行者の声が響く。
そういう焦らし、いらないよ~。

「お二人の、新たな門出に、駆け付けてくれた方がいらっしゃいます」

どうぞ!!の声に私を覆っていた幕が下ろされた。
瞬間「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!!」と地響きのような声が響いて、波のようにステージの周りに若い人たちが押し寄せてきた。
後退りそうになったけど、ホテル従業員が直前で制止してくれる。
向けられるスマホやフラッシュに、ちょっと上の団塊の人は、誰って感じで、なんか申し訳ない気持ちになる。

「えっと……皆さん、初めまして。Museの杏と申します。私をご存じの方もいらっしゃること、大変嬉しく思います。えっと……すみません。今ツアー中で、着の身着のままに来てしまって、衣装のままなんですが……」

声が詰まる。
伏せていた顔を上げると、驚愕に染まる玲奈の姿があった。
記憶よりもちょっと痩せて、雰囲気が大人になっている。
綺麗だな、良かったな、て心から思う。

「式に間に合って良かった……。島田君、玲奈さん、ご結婚おめでとうごどいます。また、両家ご親族の皆様、心よりお祝い申し上げます。えっと……玲奈さんとは、保育園からのお付き合いで、姉妹のように一緒に育ちました。私が辛い時、いつも隣にいて励ましてくれたのが玲奈さんでした。島田君とも同級生で、いつも趣味でゲームを作っていて、当時は、ただのオタクだと思ってたんですけど」

くすくすと笑いが起きた。

「でも、今こうしてそれが今お仕事になってて、人生いつどこで何がどうなるか解らないなって、凄いなって思います。えっと、すみません。ちゃんとスピーチを用意してなくて……」
< 88 / 104 >

この作品をシェア

pagetop