敏腕メイドと秘密の契約
「ああ、確か中学の3年間、天音が勉強で一度も勝てなかった首席の子だったな」

父・隼人が天音の古傷を抉る。

「その子がアメリカに行ってしまったから、高校に上がった天音がまた首席に返り咲いたのか?てっきり実力で奪還したのかと感心していたのに」

叔父の忠志が"とんでもない"と首を振り、追い討ちをかける。

「何を言ってるんだ、藍ちゃんのWAIS-ⅢのIQは161以上だぞ。アラバマの有名大学も首席・飛び級で卒業、ギフステッドと呼ばれる天才だ。勝てるはずがないだろう」

ギフステッドの脳はコンピューター並みと言われる。
エーアイのあだ名は伊達ではなかったと言える。

「勉強だけじゃない。ほぼ何でもこなす身体能力も相当なもんだ。CIAからも目をつけられていて何度も勧誘を受けていたんだが、日本政府からも横やりが入ったとか」

忠志は、自分の娘のことのように自慢気だ。

「まあ、何よりも、藍ちゃんの両親である、ありさと卓郎が手放すはずはないからな。三浦HSの秘密兵器だから」

何と、叔父と三浦藍の両親は、高校と大学の同級生だったらしい。

隼人は、しばらく忠志の話に耳を傾けていたが、

「今回の犯人探しだが、プログラミングに長けた天音を中心に内密に行う。三浦HSの藍さんには天音のサポートをしてもらうつもりだ。」

と話を本題に戻した。

"よしっ!!"

天音は心の中でガッツポーズをしたが、平然を装った。

「具体的に何を?」

「会社職員、取引先だけではなく、屋敷の使用人にも怪しい輩がいる。だから藍さんには、この任務期間中は天音のボディーガードとしても四六時中一緒にいてもらうことになる」

"四六時中!!"

なんと贅沢な響きだろう。
中学時代は、3年間とも別のクラスで、三浦藍が天音と関わる機会はほぼなかった。

"これでじっくり観察できる"
天音にとっては願ったり叶ったりの申し出だった。

藍の仕事の特徴は"extra"
同時に幾つもの役割を兼任できる。

屋敷では、婚約者という名のメイド的役割を。
会社では通訳 兼 秘書。
そして、全般に渡るボディーガード(資格あり)。
パーティなどでは藍の長兄も護衛につくらしいが。

「向こうは承諾したのか?」

にやけそうになる顔を必死で隠して天音は聞いた。

「ああ、忠志から話を持ちかけてもらったらすんなり了承してくれたよ。経費は莫大だかやむを得ないだろう」

三浦藍は、来週から天音の家に住み込むという。

宛もなく漂うだけの十年来の想いが、思わぬ形で実を結ぼうとしていた。この機会を逃す手はない。

"今度こそ、しっかり計画をたてて三浦藍を攻略しなければ"

それ以降の父と叔父の話は、
天音の耳には全く届いていなかった。

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