敏腕メイドと秘密の契約
藍はルームウェアに着替え、濡れた髪をバスタオルでゴシゴシと拭きながらリビングに戻ってきた。

"なんであんなに無防備で、バスタオル1枚の姿を見られても平気なんだよ?"

天音は、さっき見た藍のバスタオル姿を思い出してにやけた顔がおさまらなかった。

それがばれたらどうしようと思いながら、食事の準備をしていたが、

近づいてきた藍のルームウェア姿を目にしたとたん、天音のドキドキメーターはマックスを振り切ってしまった。

大きく衿ぐりの開いた半袖Tシャツは体にピッタリフィットして体のラインを強調している。

ショートパンツから見える2本の足はとても長くて扇情的だ。

昔からモデルのように細かったが、今では程よく筋肉がつき、ウエストも括れ、胸も谷間が見え隠れするほどの大きさだ。

"こんな願ってもない機会を2日も無駄にしたなんて!"
天音は出張に行かせた叔父(専務)を恨んだ。

日本人男性としてはこの格好を注意するべきだろうが、天音は"アメリカ的に接する"と、さっき藍に断言したばかりだ。

このラッキーな状況をみすみす自分から棒に降ることはない。

天音は開き直ることに決めた。

「藍、こっちでピザ食べよう。温めておいたから」

天音は、ビールとコーラ、インスタントコーヒー、オレンジジュースを準備していた。

「藍、何飲む?」

「うーん、ビール」

二人は3人がけのソファに並んで座り、ピザを食べながらビールで乾杯した。

「いつもそんな格好してるの?」

「うん、私暑がりだから。それにアメリカではみんなこんなだよ」

隣に座る藍の胸元が、太ももが、天音の視線を釘付けにする。

天音は出来るだけ、藍の顔を見て話すように心がけた。自制心が崩壊寸前だったからだ。

「今日は疲れたねえ、明日は、あのコンピューターを壊した犯人を見つけなきゃね。天音が浮かばれない,,,よねえ,,,。」

「あ、藍?」

ゴンっと、ビールをデーブルに置く音に続いて、藍が天音に抱きつくように倒れかかってきた。

人よりも脳をフル回転させる藍は、人よりも体力の消耗が激しい。

そして疲れるとかなりの甘えん坊になる癖があった。

いつもは疲れると自室に籠り、早々にベッドに入ると、ラブラドールの巨大なぬいぐるみを抱き枕にして寝ている。

「あ、藍ー」

倒れかかってきた藍を剥がそうとしても、ビールで酔いが回った藍は更に力を込めて抱きついてくる。

流石ボディーガードもやっているだけあって、力は強い。

藍の柔らかい胸と肌が天音の体に密着して何だかムクムクと涌き出る欲に支配されそうになる。

"役得だけど生殺しだろ"

たった一時の欲望で、藍への真実の愛を疑われるわけにはいかない。

天音は藍が被さっている状態のまま、ベッドにもなるソファの背面を左手で倒して平らにした。

そのままソファにかけていたブランケットで二人の体を覆うと、リモコンを操作し、電気を消した。

はじめは悶々として眠れなかった天音も、疲れていた体は正直で、いつのまにか眠りに落ちていた。

考えてみればとんでもなく幸せな状態ではないか。

二人は、お互いの初恋の相手と意図せず抱き合ったまま、眠ることになったのである。




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