敏腕メイドと秘密の契約
暗闇の中、藍が目を覚ますと、暖かくて優しい温もりに包まれていた。

薄いブランケット1枚では、完全に4月の寒さを凌げないが、抱き合うことで伝わってくる体温がお互いの体を暖めてくれていた。

"えっ?"

藍は、今自分の横にある端正な寝顔と、自分を抱き締める逞しい腕に驚いて目を見開いた。

"私、倉本くんと抱き合って寝てたの?"

お風呂からあがって、天音と二人でビールを飲んでピザを食べていたことは覚えている。

余りの疲れに寝落ちしたとすれば,,,。

"またやってしまった"

さすがに、男性であるジョンにはしなかった(と思いたい)が、
藍は、ルームシェアしていたジュリアやマリアには、今回と同じように抱きついたまま寝落ちした経験が多々ある。

疲れると甘えん坊になるくせは、本人には自覚が難しく、大学に研究のために泊まり込むときは、事前に個人研究室に鍵をかけ、ぬいぐるみを常に近くに置いておくことで対処していた。

藍は、ゆっくりと、天音の背中に巻き付けた自分の腕を離す。

そうして、
腰に回された天音の腕から逃れようと、体を捻るがなかなかうまくいかない。

「う~ん,,,」

天音は身じろいて、眩しそうに藍の顔を眺めたあと

「,,三、浦さん?,,,んー,,,」

とつぶやいて、藍の唇にキスを落とした。

ついばむキスから、だんだん深いキスに移行していく。

何度も何度も繰り返されるキスに、身動き出来ない藍。

しかし、だんだん気持ちよくなって、

最後には藍もキスを返していた。

「あ、藍?」

ようやく目覚めた天音の瞳は見開かれ、次第に顔が真っ赤になっていった。

「ごめん、俺、寝起きはキス魔になるんだ」

藍は、天音のカミングアウトに驚きもせず、

「私こそごめん。疲れて寝落ちするとき、抱きつき魔になるの」

と返した。

「無理やり抱きつかれて困ったでしょ?」

「ううん。俺は嬉しかった。藍は,,,嫌、だった?」

「ううん、嫌,,,じゃない」

二人は、再び手足を絡めると、どちらからともなくキスをした。

「ずっと、,,,近付きかった」

「,,,私も」

「藍の全部が欲しい」

藍はうつむいて言った。

「あの頃から,,,天音が,,,好きなの」

「俺の方がもっと好きだから,,,」

唇を寄せ合うと、天音の手が藍のルームウェアの裾から上に伸びていく。


今の二人を遮る"理由"は何もない。


"ただ愛しいという気持ちのまま心と体を重ねたい"



10年越しの二人の初恋は、思わぬきっかけ(癖)を理由に大きく花開こうとしていた。

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