ホテル御曹司が甘くてイジワルです
「あ、ありえないです。からかわないでください」
あんな、地球上のどこへ行ったって女の人が放っておかなさそうなかっこいい男の人が、わざわざ私なんかを好きになるはずがない。
たった今、ドアからかばうために抱きしめられたことを思い出す。
肩のあたりにまだ、大きな手のひらの感触が残ってる。
スーツ越しでもわかるたくましい体に、端正な顔。
そのうえ身に付けているものを見れば、お金持ちなのも間違いない。
それに対して私は、仕事中は白いブラウスに黒のカーディガン、膝下までのフレアスカート。
鎖骨のあたりまでの長さの髪をうしろでひとつにまとめた姿は、なんの印象にも残らない個性のない恰好だ。
顔だって派手なわけでも地味なわけでもなくごくごく普通の容姿の私を、異性として意識する人がいるとは思えない。
「男と女の恋愛はなにがあるかわからないのに、すぐそうやって可能性を否定しちゃうなんて、夏目さんは本当に恋愛に臆病だねぇ」
あきれたような優しいため息をつかれ、私は少し不貞腐れながら館長を睨む。