ホテル御曹司が甘くてイジワルです
『ごめん、真央ちゃん。俺、真央ちゃんのことが好きなのに……』
自分はなにも悪くないのに、そう謝ってくれた優しい彼。
悪いのは全部私なのに、彼にそんな申し訳なさそうな顔をさせてしまったのが悲しかった。
そして彼と別れてから、自分に恋愛は向いてないんだと諦めた。
館長に言った言葉は、臆病だから逃げているわけでも開き直って強がっているのでもなく、ただただ本心だ。
自分には恋愛は向いていないから、きっとこれからも恋人をつくることもなくずっとひとりで生きていくんだと思う。
そんなことを考える私をさみしい女だと思う人もいるんだろうけど、私はこうやって大好きな星に携わる仕事ができて、毎日が充実していて、不満なんてひとつもない。
二十時すぎに仕事を終え事務所を出ると、石畳の坂道にそって立つガス灯が淡く光っていた。
静かな坂道を下り、ひとり暮らしのアパートへと帰る。簡単に食事をとり、お風呂に入り、窓からぼんやりと星を眺め、眠たくなったらベッドに入る。
そして朝になればまた職場に行き、軽口を叩く館長にあいづちを打ちながら仕事をする。
明日も明後日も変わらない、穏やかで静かな暮らし。
恋人がいなくても、さみしいなんて思ったことはなかった。