ホテル御曹司が甘くてイジワルです
「ただ、清瀬さんの言葉が胸にぐっときてしまって」
「俺の言葉?」
「清瀬さん、星の砂って知ってます? お土産屋さんで小さな小瓶に入って売られているような、星の形の砂。あれ、本当は砂じゃなくて海に住む小さな小さな生き物の亡骸なんですよね」
唐突な私の質問に、清瀬さんはうなずいた。
「小学生の頃、学校の課外授業の水族館に行ったんです。たくさんある綺麗な水槽のすみっこに小さな水槽がひとつあって、中にその星の砂、有孔虫が展示されていたんです。虫眼鏡がおいてあって、レンズ越しにじっと見ていると有孔虫がわずかに動いているのが見えて、感動して」
小さな小さな砂粒のような星型の生き物たちがうごめいているさまを見ていると、まるで夜空の天の川をのぞいているような気持になった。
綺麗な熱帯魚や大きなサメにエイ。芸をする頭のいいイルカやアシカたち。子供の興味をひく海の生き物たちはたくさんいるのに、私はその小さな水槽の前から動けなかった。
「時間を忘れて見入っているうちに集合時間を過ぎていたみたいで、水族館の中をあちこち探し回った先生におもいきり叱られました。まさかあんなすみっこの地味な水槽の前にいるとは思わなかったみたいで相当心配させてしまったようです。もともと人よりマイペースというか、気になることには夢中になってしまう性格だったんですが、先生に『どうして夏目さんはほかの子みたいに普通にできないの』って叱られて、私は普通じゃないんだって落ち込んでしまいました」
そう言った私に、清瀬さんがわずかに顔をしかめた。