ホテル御曹司が甘くてイジワルです
「今日はわざわざ来てくれたのに、主人がろくに話もしないでごめんなさいね」
「いえ。ご夫婦でペンションを経営していて、お忙しいでしょうし……」
そう言って首を横に振りながらも、少し残念な気持ちになる。
清瀬さんがいくらここへ通っても寺沢さんがあの態度なら、オーベルジュのシェフを引き受けてもらうのは難しいだろうな。
「客室は三部屋だけだし、ランチもディナーも予約制だから、そんなに忙しいわけじゃないのよ。主人も私もこののんびりした生活に慣れて少し物足りなく思っているくらい」
「そうなんですか?」
「あの人、本当は清瀬さんに料理人として自分を必要としてもらえるのはうれしいのよ。詳しい話を聞けば心が揺れてしまうから、ああやって頑なな態度をとってしまうのね。興味ないふりをして、今も部屋で清瀬さんが持ってきてくれた資料を読んでいるにちがいないわ」
本当に不器用よね、と由美子さんは愛おしそうに笑う。
「清瀬さんが誘ってくれているオーベルジュがある場所って、真央さんも行ったことあるの?」
そう問われ、もちろんですとうなずく。
「改築中のオーベルジュの隣に、私の勤めるプラネタリウムがあるんです。オーベルジュの建物もそうなんですが、明治時代に建てられた異人館や商館が残っていて、坂の下には海が見えて、とても静かで素敵な場所なんですよ」
「真央さんのプラネタリウムも古い建物なの?」