ホテル御曹司が甘くてイジワルです

「はい。プラネタリウムドームは新しいんですが、事務所が石造りの倉庫を利用してるんです」

そう言いながら、ポケットからスマホを取り出し『坂の上天球館』の画像を見せる。

「わぁ、素敵ね。一度行ってみたいわ」
「ぜひ来てください。お待ちしてます!」

スマホの画面をのぞき込みながら顔を輝かせた由美子さんに嬉しくなってしまう。
住所や画像がのっている宣伝用に作ったSNSを教えていると、由美子さんがぽつりとこぼした。

「……主人が自分の作り上げたフレンチレストランを譲って、こんな場所でペンションをはじめたのは私のためなのよ」
「え?」

きょとんとした私に向かって、由美子さんは自分の耳を指さしてみせた。

「私、この耳のせいで、音が溢れた場所じゃすぐにめまいや頭痛をおこして疲れてしまうから、静かでのんびりした場所で生活させてあげたいって」

なるほど。清瀬さんの言っていたご夫婦の事情って、このことだったんだ。
そのことに配慮もせずにお金の話ばかりしていたら、それは心を閉ざされても仕方ない。

不愛想で怖そうな印象だった寺沢さんの、愛情の深さを知って胸が温かくなる。

「とても愛されているんですね」

この場所は、ご主人の由美子さんへの愛の証なんだ。丘の上にある、のどかで温かい小さなペンション。
思わず「うらやましいなぁ」とこぼすと、由美子さんは不思議そうに首をかしげた。

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