ホテル御曹司が甘くてイジワルです

「……真央さんにこんなことを言ったら気を悪くするかもしれないけど、実は私、星が大嫌いだったのよ」

沈黙をやぶるように言われ、私は驚いて顔を上げた。

「星が大嫌い……?」

星に興味がない人はたくさんいるだろうけど、わざわざ大嫌いというくらい嫌悪する人ははじめてだ。
きょとんとして目を瞬かせた私に、由美子さんが明るく笑いかける。

「生まれつき耳が悪かったから、ほかの人には当然のように聞こえるものが自分には聞こえないことがくやしかったの。綺麗な星空を見上げるとき、流星群を探すとき、みんなが顔を輝かせて夜空を仰いでいるのに、私だけにはあの星がキラキラと瞬く音が聞こえないんだって思い込んでいた」

予想外の言葉に、少し考えてからゆっくりと口を開く。

「キラキラ光る、とは言いますけど、星の光が地球の大気の揺らぎで瞬いて見えるだけで、実際に瞬いているわけでも音がしているわけでもないんですよ」

私の言葉に由美子さんが穏やかに頷いた。

「そんなこと、耳がちゃんと聞こえている人には当然のことなのよね。でも私は、存在もしない音を自分にだけ聞こえないんだと思い込んで、ずっとコンプレックスを抱いてきた。ひとこと誰かに聞けば、簡単に解決する話だったのに。結婚してから主人に打ち明けたら、『星の音なんて誰にも聞こえていない』って笑い飛ばされて、今まで悩んでいた時間はなんだったんだろうって拍子抜けしたわ」

頑なだった過去の自分を恥ずかしそうに笑った由美子さんは、椅子に座り直しこちらに体を向けた。

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