ホテル御曹司が甘くてイジワルです
「前に、父が酒癖の悪い人だったって話したじゃないですか。私が小学生の時に、酔っ払った父の機嫌を損ねて突き飛ばされて、割れたコップの上に倒れてしまったんです」
肌のほかの部分よりも白く浮き上がった、幾筋ものガラスの跡。
完全にふさがった今でも、いびつな凹凸が分かる痛々しい傷だ。
「わざとじゃなく事故でしたし、それで怒った母はすぐに父と離婚しました。傷がのこってしまったけれど、どうせ服で隠れて見えない場所だからしょうがないと自分ではあまり気にしてなかったんです。だけど……」
言いながら怖くなって、清瀬さんの顔を見れなくなる。
うつむいて、自分の足先をみつめながら、なんとか言葉を続ける。
「大学の時、はじめて好きになった人がいました。星が好きで物静かで、とても優しい人でした。彼から告白してくれて、恋人になれてうれしくて」
嗚咽がこみあげてきて、のどに手を当てる。悲しみがよみがえって泣きそうになってしまう。それでも一生懸命言葉を探す。
「でも、はじめて彼の家にお泊りしたとき、『ごめん』って謝られました。この傷が痛々しくて、抱けないって」