ホテル御曹司が甘くてイジワルです
 

「このままでは間違いなく、経営が立ち行かなくなり近いうちに閉館することになる。この立地でこの特殊な物件では、売りに出しても施設の買い手は現れないでしょう。多額の借金だけが残るのは確実だ」

彼の言葉を聞きながら、視線を館長のほうへ向ける。

館長はだまって資料を見下ろしているだけだった。
けれどその深刻な横顔で、彼の言っていることが嘘ではないのだと思い知らされる。

言葉を無くした私を見て、清瀬さんがゆったりと微笑んだ。

「借金を抱えてまで守る価値が、この古いプラネタリウムにあるとは思えませんが」

口調だけは丁寧だけど、冷たく突き放した言葉を聞いて頭に血が上った。

「古いけど、ここは大切な場所です。あなたなんかに勝手にこの坂の上天球館の価値を決められたくないです」
「確かに。ここの価値を決めるのは、私でもあなたでもなく利用者です。右肩下がりの利用者数を見るだけで、もう結果はでていると思いますが」

声を荒げた私に対して、清瀬さんは静かに言った。
その余裕にあふれた端正な笑顔は、こんな状況でも思わず見入ってしまいそうなくらい魅力的で、私はくやしくて唇を噛んだ。


 




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