ホテル御曹司が甘くてイジワルです
「長谷館長……」
いつの間にか私の横に立っていた館長を見上げると、優しい笑みが返ってくる。
「夏目さん、ごめんね」
その謝罪に、唇を噛んで首を横に振る。
「この施設を売ること、迷ってるんですよね?」
恨みがましく聞こえないように、わざと明るい声で問いかけた。
「経営がこんなに苦しいなんて知りませんでした。ここで働いているのに、何も気づかないで力になれなくて、本当にすみません」
職場がなくなることは悲しいけど、判断するのはオーナーである長谷館長だ。
そう自分に言い聞かせ頭を下げると、館長は私の隣に椅子をひっぱってきて腰を下ろした。
「経営がうまくいかなかったのは、僕の責任です。謝らなきゃいけないのはこっちのほうだ。それに前のオーナーのご遺族からここを買い取るなんて無茶なことをした時点で、借金をかかえる覚悟はできていたしね」
そう言って、館長が私のデスクの上に置かれたマグカップをみやる。
私は頷いてうっすらと湯気をたてるカップに手を伸ばしひと口飲んだ。
館長がいつも入れてくれる、はちみつのはいった甘いカフェオレ。