ホテル御曹司が甘くてイジワルです
 

「君は頑張ったんだな」

同情でも哀れみでもない、温かな言葉に胸が苦しくなる。
赤ワインのせいで酔っ払ってしまったんだろうか。なぜか鼻の奥がつんと痛くなって涙が出そうになってしまう。

「さっきから君って……、私にも名前があります」

うるんだ目元を誤魔化すように顔をしかめてみせると、清瀬さんは「そうか」と笑った。

「じゃあ、真央」
「ま、真央って!」

甘い声で名前を呼ばれ驚いて目を見開く私に、まっすぐな視線を向ける。

「夏目真央、だろう?」

名乗った覚えはないのに、いつの間に私のフルネームを知ったんだろう。
そう疑問に思ってから、仕事中は胸元にネームプレートをつけているのを思い出す。きっとそれを見て覚えていてくれたんだ。

「で、できれば夏目と名字で呼んでほしいんですけど」

こんな甘い声で名前を呼ばれるのは落ち着かないし心臓に悪い。
動揺を悟られたくなくてうつむきながら小声で言った私に、清瀬さんは楽しげに笑う。


 
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