ホテル御曹司が甘くてイジワルです
足がもつれ咄嗟にかがんだ私の方に、重い鉄の扉がせまってくる。
衝撃を覚悟してぎゅっと目をつぶったけれど、触れたのは温かな感触だった。
「え……?」
恐る恐る目を開くと、たくましい腕の中。
スーツ姿の男性が、私のことをかばうように胸の中に抱き、片手で重い扉を支えていてくれていた。
「大丈夫か?」
低い声で確認するように問われ、首筋のあたりが甘く粟立つ。
「だ、大丈夫です! すみませんっ!!」
私が焦りながら謝ると、頭上で吐息を漏らすような小さな笑い声が聞こえた。
私を抱きしめていた腕を緩める。
「あ、あのお怪我はありませんでしたか?」
動揺で逸る心臓を抑えながらたずねると、彼は冷静な表情で首を横に振った。
そしてなにごともなかったように出口へと歩いていく。
「ありがとうございました」
慌ててお礼を言うと、一瞬こちらに視線を向け小さくうなずいた。