ホテル御曹司が甘くてイジワルです
その彼のスマートな身のこなしに、出口の扉に背を預けたままぼんやりと見惚れていると、事務所スペースにいた長谷館長が近づいてきた。
「あのお客さん、また来てたね」
シルバーの丸眼鏡に白髪交じりの髪の毛。
六十歳手前の穏やかなおじさまという雰囲気の館長は、出ていくその人を眺めながら私に耳打ちするように言った。
「そうですね。最近ちょこちょこ来てくれてますよね」
深呼吸をして平静をよそおいながら頷く。
一、二か月ほど前から、ここへ通ってくれているお客様。いつもひとりで来てすぐに帰る。
言葉を交わしたのは今日がはじめてだけど、平日の昼間に男の人がひとりでプラネタリウムにやってくるのは珍しいのですっかり顔を覚えてしまった。
わざわざ足を運んでくれるってことは、きっと星が好きなんだろうな。
何度もプラネタリウムを見に来るほど星好きの人は意外と少ないから、お客様の中に彼の姿を見つけると少し嬉しくなってしまう。