冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
いつそのときが来るのか、考えなかったわけじゃない。だけど家の中にはいつも恵がいて、あの子の気配がある間は、私の中の母親スイッチは常にオンなのだ。

恵と同じ空間で女にはなれない。

退任までの了は再び多忙を極め、寝るタイミングも起きるタイミングも別。一緒に寝ていた感覚すらほとんどない。

夫婦ってこういうもので、いずれたまたまふたりきりになったとき、昔みたいな関係に戻ったりするのかなと想像していた。

それが、いきなりこれ?


「あの、了、私……」

「む、無理しないで。嫌なら言って。義務感とかでするものでもないし」

「嫌なんかじゃ……」

「出かける? どこかでゆっくりお茶飲む時間くらい……」

「了!」


私の声に、了は目を大きく見開いて、「うん」と言った。今度は私が目を泳がせる番だった。脱いだコートを抱きしめ、言葉を探す。


「私、子どもを産んだの。産んで、育てたの」


了がぽかんとしたのがわかった。


「うん……?」

「服を着てたらわからないと思うけど、やっぱり昔の私とは違うの」


これを認めるのは自分でもつらい。私も女だ。


「了をがっかりさせるかもしれない」


声が震えた。思っていた以上に、そのことを気に病んでいたんだと気づいた。

はじめて肌を重ねたときから、三年たっている。その三年の間に、私の肉体は、人生で最も大きな変化を経験した。

了の静かな声がした。


「絶対しない」
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