その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
「もう寝てください!」

課長に背を向けてそう言い放つと「はいはい」という返事が背中越しに聞こえる。


本当、課長は変なことを言ってくるんだから……。



……課長は何を考えているのだろう?
もし、私が〝そうです〟だなんて答えたらどうするつもりだったのだろう?



「幹本さん、起きてる?」

寝たと思った課長から急に声を掛けられ、反射的に「はいっ」と答えてしまう。

もう一度彼の方を向くと、彼は笑いながらこちらを見ていて、


「呼んだだけ」


なんて言ってくる。


……もう。私のことからかってばかりだ。



「……ほんと、軽いですよね。課長って」

ちょっと拗ねた私は、相手が上司であることは一旦忘れ、そう言い放った。


すると課長は、唇を少し尖らせ、


「ずっとそう思ってたのか?」

と聞いてくる。


「はあ。思ってたっていうか、思ってますけど」

「進行形か〜、くそ〜。よく言われるんだよな〜。こう見えても結構真面目なのに」

「今だって、超軽かったじゃないですか」

「どこら辺が軽かった?」

「自覚ないんですか? 急に名前呼んできたり、セッ……がどうのって言ってきたりしたじゃないですか」

あ……また話をぶり返してしまった。少し後悔する。


すると。


「それって軽いの?」

「どう考えても軽いじゃないですか!」

「誰に対しても言う訳じゃないんだぜ」

「え?」

「幹本さんだから言っただけなんだけどなあ」
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