惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
顔を寄せ合い、声を大にしなければ会話も成立しない音量だった。
「やかましいってなによ。ここ、いろんな大道芸人がテーブルを回って芸を見せてくれるらしいの。一度来たいと思っていたんだ」
なるほど。それで“カーニバル”。
ひとり納得していると、「香奈はなに飲む?」とメニュー表を見ている琴子に聞かれた。
「私はオレンジジュースで」
「え? カシスオレンジじゃなくて? アルコール抜き?」
「うん、アルコールは少し控えたほうがいいかと思って」
そう言いながら左手を琴子に見せる。
「あ、そうか。でも、乾杯くらいはいいんじゃない?」
「そうだね。それじゃ最初の一杯だけ」
みんなと同じくビールを注文してもらった。
そうだ。陽介さんにメールを入れておかなきゃ。
トイレに立つ振りをしてテーブルを離れる。同期会があることを報告すると、迎えに行くから店がどこだかわかったら連絡がほしいと言われていたのだ。忙しい陽介さんに迷惑を掛けたくない。迎えは遠慮するとしても、メールだけは……。『カーニバルプレイスという店ですが、お迎えはなくて大丈夫です』と送った。