拾い恋(もの)は、偶然か?
ジッと見つめれば、部長は気まずそうに笑い、再び私をきつく抱きしめた。
「ごめん、仕事が忙しくて。」
「そうじゃありません。」
「では、なんだ?」
首を傾げる部長を見て、ため息が漏れた。
この人、実は、うん、もしかして……。
色々と、気付いていないの、かも?
「言ってくれ。音の為ならなんでもしてやりたいから。」
部長は、うちの会社の一角を支えるやり手な人。社長の息子だとしてもきっと、人の汚い部分に触れずに生きてくることは困難だ。
だけど、この人は。
「音。」
あまりにも純粋に、人を愛する。
その対象が今私だということはとても幸運だけど。
「あの、七瀬さんのこと、気付いています?」
「え?」
"それ以外"が、まったく見えていない。いや、見ないのは、大いに問題だ。
「七瀬がどうした?」
あんなに熱烈なアピールを受けているというのに、気付かないなんて。
「部長、私、なんとなく分かりました。」
「ん?」
きっと部長に元カノが多いのは、このせい。普通なら嫉妬に狂って、いつか音を上げて自分からリタイアしてしまうだろう。
「でもまぁ、いいです。」
「音?」
私は、そうじゃないけど。