拾い恋(もの)は、偶然か?




---、


「社長の息子?」

「うん。」


鳴海先輩に見えるように、フロアの奥にある部長室を指さした。そんな私に首を横に振ってみせた先輩は、この部屋の天井を指さしている。



「松崎の彼氏の方。部長の弟!」

「え、そうでしたっけ?」

「はぁ?」



目を見開く鳴海先輩に苦笑いを返した。松崎さんがそのようなことを言っていた気がするけど、どうやら色々忘れてしまっているようだ。


そういえば。


「部長と別れたのは、彼の方がいいからって。」

「……部長が絡むのだけはしっかり覚えてるのね。」

「えへへへへ。」

「なんでそこで照れるのよ?」


頬杖をつく鳴海は、呆れたように溜息を吐いた。だけどしょうがないじゃない?大切な、大切な部長のこと。話す言葉から行動まで、なに一つ取りこぼすことなく覚えていたい。


「そうだよね。古蝶は部長が部長だからじゃなく、司馬翔吾だから好きになったんだよね。」

「へ?」



周りを見渡した鳴海先輩は、コップを傾ける動作をして。


「行くよ。今夜。」


そう宣言した。



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