拾い恋(もの)は、偶然か?




どうやら私の彼氏様は、ヘタレで、そう簡単に人を信じられるほど素直じゃないらしい。


「へへ。」

「……音?」


怪訝な表情のこの人は、私をまだまだ心から信じきるということができないらしい。それはきっと、年月が解決してくれることではなく、もっと根本的なものなんだと思う。


「翔吾さん。」

「え?」


なら、しょうがない。


「これから、そう呼びます。」

「いや、でも音。」

私が、馬鹿なくらい、司馬翔吾を好きでいればいいんだ。


真正面から翔吾さんに抱きついて、甘えてみるけど、恥ずかしさが邪魔をして、なんとなくぎこちない。

「音。」

慌てる翔吾さんの声も無視して、頬にキスをした。寝起きなせいか、顔に髭が当たって痒い。


強く抱きしめれば、翔吾さんはおずおずと背中に手を回して抱きしめ返してくれる。こんなにも素直で、こんなにも臆病な、可愛い私の恋人。


怯えるこの人に信じてもらうには、私がまず、表現してあげないと。



強がって、怖がって、私はラインを引いてこの人と付き合ってきた。それを取っ払わないと、この人の疑心は打破できない。




< 140 / 288 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop