拾い恋(もの)は、偶然か?

私の知る松崎若菜さんは、衛を野放しにしてしまうような人じゃない。なんなら手綱で縛ってしっかり管理してる、そんな印象だ。


「衛の奴、私に同じ手を使って口説いてきやしたぜ。」

「ふふ、なにそれ、チクってるの?」

「いえ、飼い主に抗議を。」


噴き出した松崎さんは、しばらく肩を震わせ笑っていた。何が可笑しいのかは分からないけど、ほんとに切実に、衛をどうかしてほしいのだけど。

翔吾さんと私の素敵な日常を乱す要素は、なるべく早く排除すべきだ。


「あー、笑った。」


大きく溜息を吐いてようやく笑いを収めたらしい松崎さんは、コーヒーカップを見つめて微笑んだ。その笑顔はなんだか寂しそうで。なんだかいつも強気なこの人らしくない表情だと思った。


「あの兄弟はね、愛情表現がへたくそなの。それなのに私は、どちらにも気持ちをさらけ出せなかった。変なプライドかしらね?」

「分かる、気はしますが。」


衛は知らないけど、翔吾さんは確かにそうな気がする。突然強引に告白してきたと思えば、すぐに奥手になるし。自分の体のことがあるからなのか、酷く臆病だと感じてしまう時もある。


だけど、それは。


「寂しいって言えばいいんですよ、はっきりと。」

「え?」


解決策は、たったそれだけのことだと思う。


< 149 / 288 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop