拾い恋(もの)は、偶然か?
どうやら、私の視線でそれを読み取ったらしい松崎さんの眉間に更に深い皺が刻まれたのを見て、思わず噴き出しそうになる。
コホン、とわざとらしく咳払いをした松崎さんは、何事もなかったかのようにコーヒーを一口飲んで中指をたてた。
「エステに彼氏、自分のケア、その他自分が美しくなるための諸々。」
「中指から立てるところに悪意を感じますね。」
数えるように立っていく指を見つめながら苦笑した私に、松崎さんは小さく舌を出した。
……チッ、可愛いし。
「秘書課なんてね、協調性の欠片もないわよ。それこそ良い男と自分のことにかけちゃなおさらね。」
長い髪をふわりと払って、松崎さんはニヤリと笑う。
「特に私なんて次期社長を勝ち取ったからね。そりゃーもう嫉妬の嵐よ。」
オホホ、と聞こえてきそうなほどご満悦な様子の松崎さん。ここはドン引きするところなんだろうけど逆に関心してしまう。
そんな状況の中でもきっとこの人はいつも笑ってる。周りに負けてたまるかって、長いヒールで頑張って立っている。そんな気がする。
「どうでもいいですけど、そんな度胸があるなら衛の手綱、しっかり握っていてくださいね。」
「……秘書課の子たちより、あんたの方が怖いわ。」
心も大切にする、傲慢な女性。だけどそれは、小気味よいほど自分というものを持っている証拠だ。私も見習いたい。堂々と、翔吾さんを好きでいたいと思う。