拾い恋(もの)は、偶然か?




恋愛の仕方って、年齢を重ねるほど臆病に、慎重になっていく。それがドキドキやワクワクから遠退いてしまうとしても、傷ついた胸の痛みをまた感じるくらいならって、思ってしまう。


私は、どうなんだろうか?


「音?」


この素敵な人と恋愛をしていて、嫌になることは一度もないけど、傷つかない保証は見込めない。

私は25ともう、結婚を意識してしまう年だ。32歳の翔吾さんは尚更。


「翔吾さん、美味しかったです。」

「そう。それは良かった。」


帰りの車内。松田部長が早めに降りて、二人っきりの空間。

運転しながら翔吾さんはなにやら真剣な表情で。


「音。」

「はい?」

「っっ、いや、なんでもない。」

「そう、ですか。」

「ああ。」


私に下手くそな、作り笑いをする。

こんなに完璧な人でも、悩んで悩んで、恋をする。

鳴海先輩だって、松田部長だって、松崎さんだって。あんなに完璧な人たちでも葛藤して、苦しむんだ。


「待ってますね。」

「え?」


見つめ合った翔吾さんの目は、今はまだまっすぐに私を見つめてくれている。だから私は、この人を信じる。それを分かってくれたのか、翔吾さんは返事をするように頷いた。

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