私の本音は、あなたの為に。
私の頭の中は、ママの一言で全てこんがらがっていた。


(私、優希だよね?勇也じゃないよね?)


そう思いながらも、私は操り人形の様にママの後を静かについて行った。


もう、ショックで何も言えなかった。


(ママ、やめて、私が買いたいのはこれじゃないの)


ママが私を鏡の前に立たせ、次々に洋服を胸に当ててくる。


けれど、何の洋服が私に似合うか分からない。


(サッカーのチーム?そんなの何も知らないよ、お兄ちゃんじゃないんだから!)


ママが笑顔で私に話し掛けてくるけれど。


私はサッカーの事なんて、ほとんど何も知らない。


本当にサッカーの事について詳しいのは、兄なのだから。



結局、この日はママに強引に決められたサッカー関連の服と男用の服を買い、私達は家に帰った。


もちろん、私の行きたかった3階には1度も足を向けないまま。


それに、1度も私の名前を呼んでくれないまま。


「勇也、買い物楽しかったわね!」


家へと戻ってきた私達は、いつもの様にリビングのテーブルに買い物袋を置いて椅子に座った。


(楽しかったのは、ママだけだよ)


袋を開いて今日買った真新しい洋服を取り出すママを見て、私はそっとため息をついた。
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