私の本音は、あなたの為に。
「もう、勇也ったらまだそんな事を言うの?あなたは勇也じゃない。その短い髪の毛が何よりの証拠よ」


ママはフライパンで野菜を炒めながら、一瞬こちらに笑顔を向けてきた。


「だけど、その髪も伸びてきたわね…。今日、切りに行きましょうか」


(昨日、切ったばかりだよ)


私は自分の髪の毛をくるくると指先に巻き付け、思い切り引っ張った。


(痛い…)


ついでに、頬もつねってみる。


(痛いっ…)


どちらも、夢ではない事を示していた。


「ママ、私昨日髪の毛切ったばかりだよ。ここまで…、胸まで長かったから、結べる様に肩まで切ったの。覚えてるよね?」


私の必死な響きは、ママの不思議そうな声によってかき消される。


「そうだった?でも、あなたの髪の毛は長いと思うけれど…。肩に髪の毛がかかっているじゃないの」


私の視界が、真っ暗になる。


「そうねえ…。いつも通りの短さまで切りましょう」


勇也は髪の毛が短い方が似合うからね、とママはにこやかに笑う。


そんなママと対照的に、私は全く笑えない。


(ママ、私の事が分からないの…?)



もっと早くから、気付くべきだった。


昨日、私が髪の毛を切った直後から、ママの様子はおかしかったではないか。
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